第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
「まあ私は女だから、男の人のそういう感情を頭では理解していても、その本質を理解できないだろうから、そんな口本当は利けないけどね」
医者には患者の心に寄り添う力もまた必要だ。
彼女は元々協調性はないから、せめて相手の気持ちを理解することを怠らないようにしてきた。
だが性別が違うとなると、考え方も結構違ってくるので、そこが難点だとも思ってきた。
「お前……もし自分が男だったらなんて思ったことあるのか?」
「……」
高杉は思った。
前、雅は「医術は特別に教えてもらった」と言っていた。
本来医者は男の職業であり、女がなるのは普通では考えられない。
雅の師匠は、雅に医術を教えるのを、最初は躊躇っていたのではないのかと。
世継ぎで運悪く男子がいなかったから、仕方なく引き継いだってわけではなさそうだし。
(何よりコイツ、松下村塾にいたときから、女みてーな可愛げがなかったからな…)
周りの奴らも「もったいねェ」なんて言われていたのを、よく覚えている。
「今私のことディスった?」
「!。し、してねェよ。それより結局どうなんだよ?」
コイツ。心の中も読めるのか?
「…確かにあったかもね。そうすれば今でも都合がよかったし。アンタとも気ままに酒が飲めたかもしれない」
「!」
「だからと言って、別に本当に男になるつもりはないよ。技術的には可能だけど」
こんなことくっちゃべっているのにも関わらず、彼女は今日一番の微笑みを浮かべた。
(そんな晴れの日の風のように爽やかな表情で言う事じゃねーぜ)
「でもそうすれば、私は世の風潮に服従するってことになる。世間の常識に怯む感じがして、何だか後味が悪くなる」
女は不向きだ?そんなのやってみなければ分からない。
私が進むのは、世間が作った楽チン出世コースじゃない。
たとえ苦難だろうと歩きがいのある、自分の道コースさ。
「!」
ゲホッ、ゴホッ
雅は口を押さえて再び咳込み、小さく屈んだ。
「お、お前!」
高杉は背中をさすって少しでも楽にさせようとした。
「だッ…大丈夫。さっき言った通り明日には……」
「おい待て!」
雅が反射的に隠そうとした手を取った。
手の平には赤い液体がべったりついていた。