第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
雅は男から手を離して、口を押さえた。
「ゲホッ!ゴホッ!ッ!」
「ちょッ!雅さんッ!」
明らかに普通じゃない咳。
さっき高杉さんの肩に担がれていたのは、ただの怪我のせいじゃなかったのか!
自分は何て事を。
そう後悔しても、事の重大さに気付くには遅すぎた。
かけつけてきた高杉さんに疑われても、言い訳なんてできなかった。
「てめェ…今何しようとした?」
「ち、違うんですよ!高杉さん。これは…」
かと言って、正直に話す勇気なんて無かった。
でも、
「さっきアンタが言ったこと、ここで口外しても構わないんだよ。それが嫌だったら、早くここから出た方がいい」
雅さん本人が逃げ道を作ってくれ、自分は腰抜けのようにその場から逃げた。
こんな男、最初から好かれるワケがなかった。いや、もはや自分は男じゃない。ただの小心者だ。
いや、そんなこと知っていた。ただ自分は知りたかっただけなのだ。
雅さんが高杉さんを……
そして現在、
「お前、大丈夫か?」
「……」
高杉の左腕に目を落とした。
「私の方は睡眠取って、明日になれば治る。アンタの方も明日の戦には出られるはずだ」
雅は気分晴らしに外の葉桜を見ることにした。
正直、今高杉と話す気分になれなかったから。
「何があったんだ?」
「……」
雅は机の棚から煙管を取り出したが、高杉がひょいっと取り上げた。
「待て待て。こんなモン吸ったら余計悪化するだろ」
「…癖で。つい」
「やれやれ」と高杉は雅の隣に座ってあぐらをかいた。
「正直に言えや。何があった?」
「……言ったら、あの人をどうするの?」
「場合によっちゃ、けじめをつけさせる」
高杉は正直に言った。
「なら言いたくないな」
「それ言ってるようなもんだぞ」
「あ」
らしくもなく、彼女は二度目のうっかりさんだった。