第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
スースー
また気絶したかと思いきや、小さな寝息がした。
(寝ンのかよ。さっきまでの遠慮の精神どこいった?)
なんて、自分で独り言、いや独り思するのは疲れてきて、歩くことに集中した。
(やってくれたな。このバカは…)
・・・・・・・・
あんなことされて、正気でいられるわけねェだろ
もし俺じゃなかったらどうなってた?
よく考えりァ、ガキの頃から変わったのは、背丈だけじゃねーんだ
今更ながら、コイツが“女”だってことを自覚しちまった
近いうちに部屋訪問も卒業するか。今後のためにもな……
右腕で彼女を抱えていて、麻酔がきれたばかりの左腕で拳を握った。
俺の気持ちも知らずに……
「……」
高杉は肩に乗っている雅の頭に頬を寄せた。
雅は寝ていなかった。
顔を見られたくなくて、高杉の肩に伏せたのだ。
昔の感情が溢れ出ないように、唇を噛み締めていた。
『てめェの師匠も昔、こうしてお前をおぶったりしていてな』
(!)
目を閉じて背負われていることだけに集中すると、“あの人”との想い出が蘇ってしまう。
夕焼けこやけの帰り道。せんせーの診察が終わったあと、付き人の私は眠気に襲われた。
目をこすって大きなあくびをした。
『ったく。しょうがねぇな』
ふわっと重力が変わった。
視界が大きく変わって、まぶしい夕焼けが目に差さった。
暖かい体温、揺れる重心、優しい手、黒い大きな背中、黒髪の一つ結び。
『わーい!せんせーのおんぶだ!』
『あんまはしゃぐな。でも、大きくなったな』
今と同じ夕暮れ時。同じような感覚だった。
でも目を開ければ知ってしまう。今私をおぶっているのは“あの人”じゃない。
(余計なこと思い出させるな。バカ晋助が…)
雅は狸寝入りで背負われながら、左手で拳を握り震えた。
それで高杉の背中を軽く殴ろうとしたが、気づかれないくらい優しく触れた。
寺についた頃にはすっかり暗くなっていた。
しかし、おぶられているのを誰かに見られるのはマズいと思い、門をくぐる直前におんぶから肩掛けに変更した。
「総督!ようやくお帰りに……って雅さんんん?!」
周りの皆が一斉に、高杉の肩でぐったりしている雅に驚いた。