第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
「そ、そうだな」
この時、高杉は悟られないようにした。
彼女が自分のことを見てきてよく知っていて、それが少しだけ嬉しいことを。
そして彼女は知らないだろう。
高杉は彼女くらいにしか素直になれないことを。
「やっぱり苦手だ…誰かに背負われるのは」
彼女は息を吐くような感じで本音っぽいものを漏らした。
こんなところで意外な弱点が発掘された。
「自分から俺の背中にひっつき虫みてーにひっついてきたくせに、やられるのは嫌なのか?」
「おんぶもお姫様抱っこも、子供扱いされている気がする」
この夢小説の場では、そういうシチュエーションは、夢主とキャラクターのおいしいところ。
だがこの小説の主人公はどうやら、そういうのはお気に召さないようだ。
(安心しろ。あんな濃厚なキスしてきたてめェは間違いなく子供じゃねーよ…)
しかもおんぶの方が嫌で、“さっき”のは平気なのか?逆だろ。
その話題を思うと、また“さっき”のことを思い出しちまう。
高杉は唇を噛みしめた。
「動いたら血液の循環が促進されて、体に残ってる毒が余計回るだろ?動くんじゃねーよ」
「アンタ意外と詳しいんだね」
高杉は雅の医術を見てきたから、そこらへんの知識も何となくだが分かっていた。
いや実を言うと、高杉は彼女を人一倍見てきたから彼女の影響で、素人に毛が生えたくらいの知識はあった。
大切な人ほど、誰よりも見てきたのだ。
松陽もまた、その1人だった…
今俺の背中にいる小さな体が背負っているのは、この軍の中で一番大きなものかもしれねー。
松下村塾では、背中ばかりを見せて正面からぶつかりもしないガキだった。
誰一人として信頼する者を作ろうとしなかった一匹狼が、今では皆から信頼され背中を預けられている存在。
(昔と随分変わったもんだな…)
コイツにァその前も、背中を預けることも背負ってもらう奴がいなかったのか?
いや、少なくとも1人はいたんだっけな?
松陽とは違う、もう1人の…
「てめェの師匠も昔、こうしてお前をおぶったりしていてな」
俺はつい思っていたことを口にした。だが後ろからの返答は来なかった。
「雅…?」
ポスッ
「!」
言葉の代わりに、肩に暖かい感触が広がった。
雅が俺の肩に顔を埋めた。
「おい…!」