第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
“翡翠”の巫女なんて呼ばれるくらい、その色がくっきり分かるのに。
(気のせい…だったのか…?)
「何、人の顔ジロジロ見てるの…?」
「!。いや、なんつーか…」
雅は何かを思い出したようにハッとして俯いた。
何か言いたげ高杉の心境を察した。
「その…ごめん。舌入れて…」
舌?
「!」
さっき雅に深く口づけをされたこと、その時の柔らかい唇と舌の感触を思い出して、顔が紅潮した。
「なッ…!!」
声をうまく出せないほど焦る。気まずくなってきやがった。
コイツは死にかけていたが、こちとら寿命が縮んだみてーだ。
おかげで心臓の鼓動がしばらく止みそうにねェ……
唯一の救いは、誰も見てなかったことか。
(思いっきし舌入れられたのは確かだが。自分から堂々と言うか普通?)
あれは雅が毒を特定するために、ああするしかなかったのは分かっている。辰馬みてェな邪なことも考えてることはねェのも。
「悪かった…」
「いや…それァ…」
何を話せばいいのかと、俺は返答に困った。
雅は俺が怒っていると思っているみてェだが、怒ってるわけじゃない。
ただ、“それ”を何て言い表せばいいか、分からなかった。
「他人の意思を無視して強引にするなんて、医者失格だ。いや、人としてどうかという問題でもあった…」
「いやそこまで重く考えるなや。てかてめーのお役職と一緒にすんな。それより早くここからずらがった方がいいんじゃねーか?」
「そうだ!“ずら”がると言ったら、“ヅラ”も銀も待っているはずだから急ごう」
あたりが暗くなってきた。また襲われでもしたらたまったもんじゃない。
さっき自分は晋助を襲ったのだが。
体内の毒は完全に消せてはいないが、歩く程度はできるはず。
雅は岩を手すり代わりに立ち上がろうとした。
しかしそれより先に、高杉がおんぶするのが早かった。
「……何か、違くね?」
「いや合っている。行くぞ」
「いや合ってない。行くな」
降りようとしても、高杉の腕の力の方が強く降りられない。
「アンタ、左腕縫合したばかりだから」
「さっきまで死にそーだった奴が説得力ねェぜ。それに急がねェとてめーだって…」
またさっきみたいに苦しまれたら、心臓がいくつあっても足りねェや。