第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
(こんな苦しみ方、尋常じゃねェ…)
コイツは今までどんなケガを負っても、痛がる素振りも見せねェどころか、すました顔でいつも淡々と自分で包帯を巻いていた。
苦しむ姿なんて見たことが…ましてやこんな。
雅は右手で左腕を強く握りしめて、痛みを紛らわそうとした。
血液のポンプである心臓、体の中心から、根のように枝分かれした四肢の毛細血管まで、体内全ての血管に激痛が走るような感覚が襲ってきた。
ドクンッ!!!
体中の全細胞がひしめくような感覚。気を少しでも緩めたら逝ってしまうような感覚。
(ここまで…とは…)
しばらくして、雅は力を抜いてコクンッと意識を手放した。
「雅?嘘だろ…おい…雅!」
俺は雅の名前を何度も呼んだが、目を覚ますどころか、ピクリとも動いてくれやしねェ。
「雅ッ!死ぬんじゃねェ!本当にシャレにならねー!雅ッ!」
「る…さい…聞こえている……」
しかし雅は意識を戻して、片方の手でうるさそうに耳を塞いで、もう片方の手で俺の肩に手を置いた。
「そんなに呼ばずとも……自分の名前くらい知ってる」
さっきよりも声ははっきりとしていて、目もいつものような冷ややかな感じに戻っていた。
「お前…!」
「体内の毒は今の薬で一通り……無くした」
吐血した時に口の端についた血を拭った。
「じゃ成功したのか?」
「ん…見たとおり……体への負担はかなり大きかったが……」
大きいってレベルじゃなかっただろ?血だって吐いたじゃねーか。
「おめェさん本当に大丈夫なのか?さっきの苦しみ方、むしろ毒入れたようなもんじゃねーのか?」
「そうだ。あれは“毒”だ。だからこそ打ち消すのに必要だった。よく言うじゃないか。『毒をもって毒を制す』と」
「あれァ諺であって、実際にそうなのか?」
それは、悪人を退治するのに別の悪人利用するって例えじゃなかったか?
「ッ!」
雅は脳に直接突き刺さるような頭痛がして、片手で左目ごと頭部を抑えた。
(!)
この時俺は、雅の右の瞳の色がいつもと違ったように見えた。
翡翠色のきれいな緑が、深い赤色に一瞬変わったように見えた。