第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
「さらばだ。お前は死ぬ」
敵は拳を振りかざした。雅は何の抵抗もする気もなく、敵の前でじっと立ち尽くした。
剣もその心も折れた相手など恐れるに足りない。
女だろうと、国に反旗を掲げた反乱分子。
松陽の意志を継ぐものは、排除しなければならない。
噂に聞くその医の技術を持ってすれば、この国の中枢にもなれたものを。
終わりだ…
(何ッ?!)
しかし雅の左手には刀があった。さっきとは違うものだ。
(まさか…!)
その刀は、
・・・・・
高杉のものだった。
さっき高杉が投げ渡したものだった。
(まさか、“右”目を狙ったのは…!)
左手で刀を受け取るための死角を作るために。より気付かれないようにするために。
高杉が雅を助けにいくよりも、目の前の敵が雅を殺す方が速い。
なら、やるべきことは、
(晋助。アンタの“魂”借りる…)
敵が雅を叩き殺すのが速いか、雅が敵を斬るのが速いか。
どっちが勝ってもおかしくない駆け引き。
その勝敗を決めたのは、敵の一瞬の隙だった。
雅の顔を間近で目にして、思い出した。
死神のような悍ましい目つき。その顔立ちに雰囲気。
見覚えがあった。
(まさかうつ…!)
スパァンッ!!
敵の首が舞い上がり、断面から血が吹き出た。
足元に首が転がりこんだ。
「…国だろうが何だろうが…この技術は誰にも渡さない……たとえどんなことがあろうとな」
首だけの敵を見下して、最後の言葉をかけた。
「…遅れて悪い。すぐに傷口を塞ぐ」
彼女はすぐ高杉の治療を始めた。
麻酔薬を投与してから専用の道具を使って左腕の縫合をした。
さっきの遅れを取ろうといつも以上に集中し、縫い終えたら包帯を丁寧に巻いた。
「終わった」
互いに安堵の息を漏らした。
もしこれ以上手術が長引けば、高杉の出血は輸血が必要になるまで酷くなっていた。
「痛みはある?」
「いや、糸を通された感覚だけで変な感じだぜ」
雅は高杉から借りた刀を手に取った。
「麻酔がまだ切れていないからだ。しばらくしたら戻る。それまで…安…静に……」
バタッ カラァン
「!」
雅は高杉の刀を手から滑り落とし、そのまま倒れた。