第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
ガァッン!!
刀を即座に抜いて、人影の斬撃を防いだ。
しかし影はもう1人いて、私が両手を塞がれて懐ががら空きなのを狙ってきた。
(そうくるか…)
私は足元の小石を蹴り飛ばして、のどあたりを狙い当てた。
影2つを返り討ちにして、その正体がようやく分かった。
(こ、コイツら…!!)
烏のように黒い布を身にまとった暗殺集団。吉田松陽を奪った張本人。
「奈落?!」
(何でコイツらがこんなところに…?!)
烏は集団。2匹倒したところで、茂みの向こうからわらわらと姿を現した。
山の中で何か出てきそうで、森のくまさんでも歌おうと思った矢先、熊ではなく烏が来るとは。
それも屍をつっつき回すタチの悪い獣が。
(私は赤ずきんのように花を摘みに来たのだが、狼ではなく烏が赤ずきんをさらに真っ赤にするためにこんな野山に来たのか?)
しかも夕方になる前に。
フッ
私は不敵な笑みをこぼした。
「アンタらが何しにここにいるかは知らんし、聞いても黙りだろう。だけど礼を言うよ。おかげで、
・・・・・・・・
探す手間が省けた」
陣羽織のポケットに入れてあった白いはちまきを頭につけた。
まさか、また会うとはな。一度目は街中でだったが、三度目がこんな山中とは。
二度目の松下村塾の時では、身動きすら取れなかった。
だが今は、むしろ動きたくてしょうがない。「目の前の敵を1人でも多く討つ」と、身体が叫んでいた。
左手の刀を握りしめて、目の色を変えた。
その目は、人を救う医者の目ではなく、敵を殺す目だった。
(山中で狩りをしに来ただろうがなんだろうが、こっちの
・・
2つの借りをきっちり返してもらうぞ)
1つは松陽の。もう1つは…
『雅。あとのことは頼んだぞ』
(“華岡愁青”のッ!!)
向こうとこっちが走るタイミングはほぼ同時だった。
後ろの茂みでこそこそ隠れている奴もいるのは、とっくに気付いていた。
私は目の前の敵に襲いかかると見せかけて、後ろの敵に飛び込んだ。
「!!」
驚く隙も与えないように、次々と敵を斬る。背丈よりも長い茂みごと。
しかし相手は私のような奴専門の暗殺部隊。そんな甘い連中じゃない。
仲間の屍を盾に死角を作って、私の体に刃を突き立てた。
後ろの木の幹ごと私は体を貫かれて、赤い液体を吐き出した。