第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「与太話もここまでだ。アンタ明日早いから早く寝た方がいい。寝る前は歯磨きも忘れずに」
「てめェは俺の母親か?」
言われなくても、そろそろおいとまするかと思ってたところだ。
部屋を出ようとしたところ、棚と壁の隙間にあるものが置いてあることに気付いた。
それは三味線だった。
「お前!こんなの持ってたのか?」
「…まあ…たまに弾く」
そうか!そういや、以前聞き覚えのある音を辿ったらこの部屋に着いた。
あれは、“三味線”の音だったのか!
190ページほど前の謎が、今になってようやく解けた。
(意外だな。雅はメスか酒か煙管持ってるイメージが強ェから、こういう芸者がやるようなモンは嗜まねェと思ってたが)
「ああ。先に言っとくが、アンタらがよくやる夜の宴に、それを披露しろとは言うなよ。頼まれても断固断る。パワハラで訴える」
まだ何も言ってないのに、先に言いすぎる雅である。
「そうか?俺は聴いてみてェけどな。宴の騒ぎもいいが、物静かな中でのてめェの奏でも、さぞかし窓の外の桜と相性がいいだろうよ」
「!」
高杉は部屋を出て、雅は後ろから「待て」と声をかけた。
「……明日の夜…時間があったら考えよう」
パタンッ
それだけを言い残して部屋の襖を閉めた。
(てことは、また部屋に行く理由ができたってことか…)
経緯はともあれ、まさかアイツにまた誘われるとは。
(……昔よりかは、信頼されてるってことでいいのか?)
あと今気づいた。羽織り物を返してもらうの忘れた。
(まあ、明日行くついでに言っとくか…)
だが少なくとも、アイツは俺のこと“男”としては見てねーんだろうな。
さっき抱擁したときすらァ、何一つ表情変えなかった。
多分、保健室に来る男子生徒や何やらだと思ってんだろうな。あの保健室の先生は。
もしかしたら、アイツの心はその師匠とやらにしか向いてねェのかもな…
松下村塾で道場破りして手当してもらったあの時からずっと…
何て考える自分に参ったと、高杉は自分の頭をかいた。
“惚れちまった女にァ、やっぱ敵わねェな……”