第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
さすが攘夷四天王の中でもツッコミ役を中心に活動しているだけある高杉。
「さすがのアンタでも分かったか」
「見え見えだそんなモン。別に言いたくねェんだったら、嘘までもつくな」
何だ今日のコイツは。さっきから俺はいじられてんのか?
「……答えられる範囲なら、別に答えても構わない。嘘はもうつかないよ」
「…なら、謎なソイツに憧れたきっかけは何だったんだ?」
(まるで就活先の面接官みたいだな…)
雅はため息をついて、目をそらした。
「……母親の命を救ってくれたからだ」
「!」
予想外の答えだった。彼女がまさか、自分の身内のことを口に出すなんて。
桂や銀時も誰も聞いたことがないのに。
「お前の…母親だと?」
雅は頷いた。
「私が生まれるずっと前、目の病を患っていたところを、救ってくれたらしいんだ」
母親からはそう聞かされた。
大切な家族を助けてくれた恩人。そんな人の志しや腕に憧れを寄せて、必死になって頼み込んだ。
“私に医者を教えて!と。
女であることなんて関係ない。この人の技術を学ぶことで、母親にもっと楽させたい。
この人のようになりたい。
医者になった動機は、誰かの役に立ちたいとか、人の命を救いたいとか、少なくとも最初はそんな殊勝なもんじゃなかったんだ。
「そうだったのか…知らなかったぜ…」
「……母は、元々体が病弱なこともあって、もう亡くなってしまったが、けど…“あの人”がいなければ、母は短命だったろうし、私は
・・・・・・・・・・・・
生まれてさえもなかったよ。確実に」
人を救うというのは、時に
・・
2人も救うことにもなる。
「……」
高杉はますます思った。
雅にとってのその師は、母親だけでなく自分の命の恩人あり、世界で一番尊い存在であること。
(ただ教えただけじゃなかったんだな。雅の師匠は……)
俺たちみてーな腐れ縁とは、まるで出来が違うんだな。生まれる前からの繋がりだから。
コイツが心の底から尊敬する理由が分かる気がする。