第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
(どうしてこうなった…?)
今更、そんなことを思った。
雅からしたら、治療で包帯巻くシュミレーションしか思ってないだろうが。
高杉は自分の心臓の鼓動が伝わらないよう、わずかに抱きしめるのを緩めた。
これ以上密着すれば、胸が当たって意識してしまう。
(コイツの部屋の中で良かったぜ。誰かに見られたらマジでヤべェ…)
でも今確かに、自分の腕の中には雅がいる。
微かに消毒液や新しい包帯が入り混じった匂いがした。
「……」
雅は高杉の背中に優しく触れた。
「!」
これ以上はヤバくなりそうで、雅を自分から引き離した。
案の定彼女は、何ともないような無表情だ。
(コイツ…)
この無神経さが、逆に羨ましい。
男にハグされても何されてもすました顔しやがるコイツが…
こっちはおかげで、ハグでバグりそうだったっつーのに。
鬼兵隊総督が女1人の抱擁でこのザマとァ、他の奴らに何て思われるのやら
俺ァこんなにらしくもなくなってんのに、てめェは何も感じねェのか?
仕事柄で慣れちまったのか。
高杉は、雅の両肩から両手を離した。
「お前……何で医者になったんだ?」
高杉は自分の気持ちを落ち着かせようと、違う話を出して気を紛らわせようとした。
「……」
雅は間を空けて、懐から書物を取り出した。
「簡単な話だ。“憧れた人”が偶然医者だったんだ」
それは吉田松陽のではなく、その“憧れた人”からからもらったものだった。
「それァ、前に言ってた“マジ謎な存在”の奴か?」
「そうだ。本当の死神みたいな人だった。確か甘いもの好きで泳げなかったかもな」
それァ銀時のことじゃねーか?
つーか他言無用の条件で教わったんじゃねェのか?そんな教えていいのか?
「あと乗り物酔いがヒドくて、知恵の輪が苦手だったりもした。猫舌だから熱い湯豆腐食べるのも必死になって、テンパりやすいのも玉に瑕だったな」
さっきから悪口ばっか言ってんのは、俺の幻聴か?さっき“憧れ”って言ってたよな。それも俺の幻聴か?
(ん?ちょっと待て。この特徴どこかで聞き覚えが…)
「一番の特徴といえば、見た目は黄色いタコみたいで…」
「おいおいそれ違う先生キャラだろ!何勝手に別作品のキャラ盗作してんだ?」