第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
彼女からしたら自分の責務のためにやっているのだが、向こうからしたら違う意味で捉えてしまう。
医者であるから仕方のないことは分かっているが、高杉はむしゃくしゃした。
(あ、晋助にはやったことなかったか…)
傷の手当てで背中とかに包帯巻くことはなかったのか。
背中を預ける仲間が多いから…か。
「じゃ、やってみる?」
「おいおい!何でそうなる?」
「いざ手当の時のためだ。予行演習だ」
「……」
高杉は背を向けた。
「お前セクハラ嫌じゃなかったのか?」
「それは断りもなくやられたらだ。だが、許可さえ取れれば別にどうでもいい」
どうでもいいって。コイツ自分が何言ってんのか分かってんのか?
まさか、俺はおちょくられてんのか?
一応コイツ見かけによらず、俺たちより2,3つ年上だからな。
そんなキャラだったか?銀時のドSでもうつったか?
「……別にやりたきゃやれよ」
どうせからかってんだろ。本気でやるわけが…
ギュッ
「!」
背中に人肌のあたたかい感触が広がった。間違いなく後ろから優しく抱きしめられている。
「お、おいッ!」
雅は一旦高杉を離した。
「……何でそんなに平気でできる?」
「そんなこと気にしてたら、医者なんて務まらないし。それに、治療するときもそんなリアクションされたら傷口が開く」
彼女からしたら、ハグなんて息をするのと同じようなものだった。
たとえ逆に異性にされたとしても、何も感じないのだ。
彼女は患者を何としても救うという志があるが、それ以外の感情的な部分は全くもってなかった。
「それかさっき辰馬にした技にするか?」
「それは止めろ。俺ァてめェにあんなんされる覚えはないぜ」
高杉がいつもと違って動揺している。その様子が少し面白可笑しく、雅はつい少しだけ笑みをこぼした。
その笑顔を見た高杉は、
「……」
ギュッ
雅を正面から抱きしめた。
「晋助?」
さっきまで躊躇していたのに。どうしたんだろう?
理由は、高杉は顔を見られたくなかったから。
自分が頬を赤らめているのを見られないよう、彼女の頭の後ろを手で押さえて自分の肩によせる形で抱き寄せた。