第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
さっきまで和やかで無防備だった彼女の寝顔は、起きた途端いつものちょっと怖い顔になっていた。
「お、起きていたのか?」
「違う。アンタに起こされた…けどまだやることあるから起きなきゃいけなかったから、ちょうどよかったが」
高杉がかけた羽織りに気づかないどころか、袖を通して着た。
サイズが違うから、自分のではないとすぐ気づくはずなのに。
(あれ、いつもより大きいな。まあいいか…)
(もしかして、寝ぼけているのか…?)
「それ俺の」と言うタイミングを逃してしまった。
珍しくボケている彼女を新鮮に思った。
辰馬の言った通り、よほど疲れているのか?
「で、アンタは何しに来たの?ご親切に私を起こしに来た、ってわけでもなさそうだし」
「いや、さっき辰馬の野郎とてめーがいたところを見たんだが…」
雅は頭を抱えて大きく落ち込んだ。
最悪のタイミングを見られてしまった…まさかあんなところを。
「いや会話は聞いてねェよ。坂本がいつもみたいにてめーに変なこと吹き込んだんだろ?」
高杉は珍しく嘘をついた。
そりゃ女の子が諸事情に触れられたところを見られればすごく落ち込む。だからせめて、聞かなかったことにしようと。
「いやそっちじゃなくて、あんなゴリラみたいな大技を見られたのは残念だ」
「そっちかよ」
コイツ、デリカシーよりも変なところを気にすんな
しかもゴリラなんて…
『雅意外と大きかったのう。胸』
!
バカの戯れ言を思い出して、危うく視線が“そっち”に向きそうになった。
「チッ」
「え?何で舌打ち?」
あの辰馬鹿。俺にも変なこと吹き込みやがって…
ため息をついた。
「雅。さっきの辰馬みたくあんま男に密着するな。この場で女はお前独りだから勘違いする」
「いや、普段もやってるが」
「!」
雅は真顔で返した。
「治療で特に包帯巻くときとか、背中をやるとき後ろに手をかける、あれだ。自然と密着するんだ。さっきほどじゃないが」
鬼兵隊の奴らが前言ってた、「手当てが楽しみ」ってそういうことかアイツら……