第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
廊下にて、
高杉は怒った様子でズカズカ歩いていた。
自分のことではないのに、彼女のことになるといつも何故かせわしない。
(ッたく。今度同じことしたら、セクハラ罪で訴えてやらァ…)
ほんとアイツには、限度ってモンがあるめー
医療道具を辰馬経由で入手しているから、アイツはそれなりに遠慮しなきゃいけねェ立場にあるのは知っている。
だがビジネスパートナーやなんやら気にせず、アイツにだけはもっと冷淡でいてもいいと思うが…
そして高杉はいつの間にか、雅の部屋まで来ていた。
(何でセクハラの被害者の部屋に俺が無意識に行くんだ?)
今までリハビリや検診や何やらで、部屋にちょくちょく行ってたから、体が習慣を覚えちまったのか。
(用事もねェのにどうして行く必要がある?)
だがさっき、吉田沙保里並みの大技を決めた後の奴が気になったから、ノックしてみた。
(……返事はねェか)
襖を開けてみたら、雅は机で寝ていた。
「雅?」
スースー
呼びかけても起きないくらいぐっすり寝てらァ。珍しいもんだな。
近付いてみると、雅のそばにはメスが何本が机の上に散らばっていた。
研ぎ石らしいものも置いてあるから、多分メスを研いでいたんだ。
(寝るんだったらそれくらい片付けろ。ケガしたらどうするんだ?)
起こさないように静かにメスを机の端によっけた。
「……」
高杉は自分が着ていた羽織りを雅にかけた。
寝ている間は体温調節も眠るから、何かしらかけないと体が冷えるからだ。
(そろそろおいとまするか…、ん?)
高杉はあることに気付いた。
雅の左手に、何も巻かれていない。普段包帯を巻いているのに。
そばには使用済みの包帯が置いてあり、ほどいたあとのようだ。
手の甲を下にして、見えるのは左手のひら。
見たところ、手のひらに傷とか特に目立ったものは見えなかった。
となると、左手の甲に……
(一体、何があるんだ…?)
高杉は雅の左手を取って、裏返そうとした。その時、
ガシッ!
「!」
彼女の右手が高杉の腕を掴んだ。
「なッ!」
彼女は起きていた。
「よぉ、アンタもセクハラか?」