第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
高杉はその様子を遠くから見た。
「今日もお手柄じゃったな。おかげでアイツの容態は今も安定しておる」
「……それはよかった」
長話をする気もなく辰馬を通り過ぎた。
「なんじゃ元気ないな?何かあったか?」
「別にいつも通りだ」
「ワシで良ければ力になるぞ」
「いやいい。部屋で休む」
「気分転換に酒でも飲むか?」
「まだ仕事があるからパスだ」
「そんなこと言わずに。疲れてんじゃないか?」
「そうだ、だから部屋に行きたいんだ」
なかなか話が切れなくて、何だかしつこくて段々とイライラしてきた。
「あすまん、ひょっとして生理か?」
ブチッ
雅の中の何かがキレた。
ガッ
雅は急に辰馬の背中を抱きしめた。
「ハッ?!」
高杉は面を食らって、思わず声が出てしまった。
「何じゃ!おまんにしては随分、積極てキィ……!?」
ダァンッ!!
辰馬の背中をホールドしたまま後ろに反り投げた。
その衝撃波が向こうの高杉まで響いた。
持っていたヤクルコのゴミをつい落とし、久しぶりに自覚した。
『雅は、怒らせたらマジヤバい』
(こ、怖ェ……)
明らかに体格差のある辰馬相手に、あんなあっさりとァ。吉田沙保里か?
雅は明らかに怒った様子で、廊下をあとにした。
辰馬は頭から地面に落っこちて、イテテテと頭を痛めた。
「今のは完全にてめェが悪ィぞ」
「痛いのう~。おなごに暴力されることはあるがここまでとは。おかげでデカいたんこぶができてしもうた」
高杉に見せたが、頭がモジャモジャすぎて見つからない。
「いや~、怒らせたらちょっとは元気出るんじゃないかなと思ったが。あんな辛気くさい顔は似合わんからのう。特にアイツのようなおなごには」
「……」
ただちょっかいを出していたわけではなかったということか。
(考えなしではねェってことか…)
「しかしさっき、後ろから抱きしめられて思ったんじゃが、雅意外と大きかったのう」
「は?何がだ?」
人のこと言えねえが、身長はそんなでも…
「胸」
ブチッ!
“前言撤回ッ”!
ダァンッ!!
高杉は辰馬の背中をホールドして、さっきの雅と同じ技を食らわせた。