第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
雅は覚えていた。
右腕を負傷したあの男には、家族がいないのだ。
戦から離脱した後、彼はリハビリを余儀なくされる。独りでは到底難しく苦難なリハビリを。
他の仲間には誰かしら家族はいたが、この男には支えになる者がいない。
だから彼には、支えてくれる友が必要なのだ。
この男のように。
「アンタが国のためを思うのは構わない。だが、たとえ戦で勝利と名誉を得たとしても、死んだ仲間は返ってこないんだ」
『!』
雅は確かに、この戦で勝ちたいと思う気持ちは誰よりもあった。
しかしそれ以上に、この者たちの絆が戦によって引き裂かれるのは、耐えられなかった。
麻酔は痛みを一時的に消せる。でも失った者の本当の痛みは消せない。
「アンタのその覚悟も、アンタたちの固い絆も、私は知っているつもり。ただこれだけは知っておいて。アンタがそのダチを本当に想うのであれば、その人のために生きるという選択肢もあることを」
男は言い返すことができず、再びすすり泣きをした。
雅に言われたことがきっかけで、胸の奥底にしまってあることを思い出したから。
本当は死にたくない。ダチともっと生きていたい。
雅は一旦その場から消えることにした。
男には考える時間が必要だからだ。
名誉ある死として、生き残った者たちの記憶の片隅に刻まれる覚悟を選ぶか、
たとえ武士らしくなくても、大切な友と生きていく道を選ぶか。
でも彼女は思った。
戦のためにかっこよく死ぬのではなく、かっこわるくても友や家族のために生きてほしい。
友を大事にしてほしい。家族同然の人を大切にしてほしい。
もちろん、決めるのはその人で、自分はその選択に従う、と。
(こんなことを言う私は、侍に向いていないのかもな……)
自分の部屋で休むことにした。
(ん?アイツ…)
ヤクルコのゴミを持っていた高杉は、偶然雅と廊下ですれ違った。
声をかけようとしたが、何だか彼女の様子がいつもと違ってかけられなかった。
何というか、目を伏せて落ち込んでいるような…
「おぉ!雅!」
運悪く真逆テンションの辰馬が現れた。
(アイツついてねェな)
あんな温度差、風邪引くどころの騒ぎじゃねェよ
もし、しつこかったら行ってやるか