第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「み、雅さん……何を…言ってるんですか?」
俺が、この戦場を離れる?
他にも俺以上の重傷者はいるのに、俺だけ腰抜けでのこのこ戦を離れろと言ったのか?この人は
何で俺だけ…?
雅に対する見方が、羨望から怒りへと変わった。
「つまりアナタは…俺がこの場にいるべきでないと…言いたいのですか…?」
「……」
雅はいつものポーカーフェイスと、何も言わなかった。
つまり、そうなのだ。
「…俺も皆と同じように、国のために命懸けてるって知ってますよね?それなのに、俺だけが皆を見捨てて逃げろと言ってるんですか?」
「“見捨てろ”なんて言わない。だけどこれは、アンタのために言っている」
ガッ!
男は両手で雅の陣羽織りの襟を掴んだ。
「そんなの、負け犬と一緒じゃないですかッ?!戦を放棄して国を見捨てるなんて、武士の風上にもおけませんッ!!」
「動くな。傷口が開く」
雅は怒ることも抵抗もせず、静かになだめた。
「おい!何をしているんだ!!」
そのとき、その一部始終を見ていた桂がちょうどやってきて、男を止めた。
男は傷口が痛んでうずくまった。
「話は聞いていた。雅。お前は何が言いたいんだ?」
リーダー格である桂は、状況を冷静にさせようとした。
男の背中をさすった。
「ッ…!そんな人だと思いませんでした。俺は、雅さんは同じだと思っていました。いつも皆を救うことを第一に考えて、誰よりもこの戦の勝利を望んでいる人だと思っていました。なのに、その戦を放棄しろなんて」
武士としてそれは侮辱に等しい。
誰もが死を覚悟してこの地に立っているのに。
もしかして、足手まといと言いたいのか。戦力にならないと言いたいのか。
「そんな私情でここの戦力を削ろうなんて、アンタはどうかしてます!」
「……確かに、1人の攘夷志士としてのアンタの行いは、立派なものだ。周りの人も国も、アナタを賞賛に値すると思うだろう。
だが私は、攘夷志士である以前に、“医者”としてここにいる。私のやるべきことは、患者とその身内の繋がりを護ることだ」