第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「え…」
雅にすがりついて声を震わせた。
「アイツはッ!アイツは…無事なんですか……?!」
落ち着けと言い聞かせて、雅はその男の手をどけた。
「今は麻酔が効いて眠っている。岩に右腕が挟まっていたから、切らざるを得なかった」
「え…じゃあ、雅さんが…アイツを……」
敵の攻撃を受けたわけではなく、仲間である彼女に腕を…
雅はその男に対して軽くおじぎをした。
「すまなかった。命を助けるためとはいえ、アンタの大事な人を傷つけた」
「……いえ、きっとアイツも納得の上でやったことなんですよね。ならむしろ…ありがとうございます。アナタのおかげで、
・・
俺たちはまた救われました」
男は涙が出そうになったのをぐっとこらえた。
命が助かったという安堵と、侍には致命的な、腕を失ったという絶望とで。
「……切っただけじゃない。代わりの腕を移植したから、実質は無くなっていない」
「え?」
男の口元が少し緩んだ。
「じゃあアイツは……!」
「ただし移植した腕は別の人間のものだから、馴染むまでかなり時間がかかる。長いリハビリが必要になるだろう」
まったく…この人は……
男は耐えきれなくて、涙をポロポロこぼした。
この女神のような人は、戦場という地獄の中で恵みを下さった。
命を救うだけでなく、この先もちゃんと“生きろ”という希望をくれた。
「じゃあ、アイツは“離脱”ってことですか?」
「ああ。この戦場にいても、剣を握ることはおろか、箸を持つことでさえ難しいからな。長いリハビリを終えれば日常生活は送れるようになる」
「……分かりました」
つまり、あの約束は果たせなくなるってことか。
『この戦が終わったら共に帰る』
だが、自分がアイツの分まで、これからも戦争を生き抜こう。
傷が癒えればまた、お国のためにこの命を捧げて剣を振るうんだ。
じゃなきゃアイツに、かっこつかねえからな
「……だが、アンタの方が軽いとはいえ療養の身だ。もしそのダチと共に戦場を離れたいのであれば、私が桂に交渉しよう」
「!」