第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
取れた右腕を男の元に運んだ。
「感覚は無くなった?」
「はい…」
患者に麻酔が効いたか確認してから、今度はこの男の右腕を切断した。
生きているからメスを入れた時の血の出は、亡骸よりも多い。
さっきよりも慎重に腕を切り離し、そして右腕を潰された岩から解放された男を仰向けにゆっくり寝かせた。
(あとは、繋げるだけだ…)
移植する際は決して古いものを使ってはいけない。
肉体も生きているのだから、時間が経てば経つほど劣化していき、最終的にはただの肉片と成り下がる。
ただでさえ、こんな戦場の中だから、手術は時間との勝負だ。
拠点にこの男と腕を運んでいっても、間に合わない。
繋げるのは今しかない。
男の腕を繋ぎ終わったら担架で運んで、辰馬たちは急いで拠点へと戻っていった。
(な、なんて…こった……)
遠くの方で辛うじてまだ生きていた天人が、今までの光景を目に焼き付けていた。
仲間の腕を躊躇無く切り落として、挙げ句の果てに仲間の死体を弄んだ。
誇りの欠片もない性根が腐っている。
このことは、天人の間でも広がることとなった。
仲間の死に泥を塗った冷酷で非情な死神。
雅の噂が、より酷くなっていった。
その夜、拠点にて、
雅は医務室の扉の前でじっと考え事をしていた。
これからある男に会って話をする必要があるから、その前に話すことの整理をしていた。
(……)
部屋へ入り、その男の名前を呼んだ。
「雅さん」
それは弾丸5発を食らって休養中のあの志士だった。
「本日はお疲れさまでした。今回もまた見事に活躍したと耳に入りました」
「ありがとう。その調子だと悪くなさそうだね」
「はい。おかげさまで。あと数日あれば復帰できると思います!」
雅は口に立て指をして、志士は慌てて口を抑えた。
ここは医務室だから大声禁止だ。
「実は、アンタに話さなきゃならないことがある」
「……はい」
何のことだろうと思いながら、きっと悪いことだと予想が付いた。
雅が話すのはだいたいが必要事項で、悪いことが多いから。
「今回その負傷した人は、アンタのダチだ」