第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
雅の目は本気だった。
「し、しかしッ!敵はもうすぐそこまで来ています!そんな他人の腕を移植するなんて、できるわけが…!」
「できるかできないかは、私が決める。アンタが決めることじゃない」
まず潰されている右腕の付け根あたりに、麻酔を打ち込んだ。
それが効くまで亡骸から右腕を回収し、その後に男の右腕を切って岩から解放させ、右腕を接合する。
時間は限られている。
仲間の亡骸のそばで手を合わせて、その右腕の袖をまくった。
「雅。本気なんじゃな…」
「……」
雅は辰馬と顔を合わせず、切断する場所を定めた。
「辰馬。仲間を大切にするアンタは、私が許せなくなるかもしれない。ひどい話だよ。死んだ仲間の誇りを無視して、体の一部を奪い取るなんて」
右腰にさしてある刀を地面に置き、手術用手袋をつけた。
「アンタも今後私を“死神”って呼んでも構わない。ただ…この場で何人に否定されようと、私は決断を変えない」
生きている仲間を救うために右腕を切ること自体、並大抵の者もましてや医者も普通はできない。
技術のこともそうだが、必ず躊躇してそれが仇となり失敗するからだ。
腕には無数の神経が通っているから、それをうまく見定めて切ることなんて至難の業だ。
いや、今の医療では、そんな技術は存在しなかった。
しかし彼女は何の躊躇もしない。
しかも右腕を切った後、塞ぐのではなくつなぎ合わせるのだ。
塞げば右腕は無くなる。武士としての生きる道を失う。
辰馬もそのことを承知していた。
「…ワシはおまんを止める気はない。いや、むしろ頼む」
雅に頭を下げた。
「辰馬さん…」
「……分かった」
※ここから先、手術シーンでR15が入ります。医術の知識も文章も稚拙なのですが、苦手な方はご遠慮ください
雅はようやく、亡骸の腕にメスを入れた。
入れた途端、血が皮膚からジワジワと溢れ出てきた。
死後でも血の流れがまだ微かに残っているということだ。
(すまん。アンタの生きた証、あの男の“生命”(いのち)に使わせてもらう)
神経ひとつひとつを確認して、すでに自分が把握している数とその種類が一致するように慎重に進んでいった。
骨の部分は、刃が粗いナイフで切った。
(よし、取れた…)