第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「……本当…ですか?」
「ああ。こればかりは脅しじゃない」
敵がこちらに向かっているのであれば、なるべく早く撤退するべき。
負傷者がいる中、あの大勢を相手するのは難しい。
この場において最善の策は、せめてこの右腕を潰され動けない男を助けて、皆で逃げることだ。
男はうっすら涙を浮かべた。
右腕を失うことの意味をよく知っているからだ。
この戦で生き延びてやると、友と固い約束をしていたから、なおのこと悔しさが溢れ出た。
「雅さん…俺は……もう…剣を握れなくなりますか?」
雅は別の岩に押しつぶされて命を落とした者たちの方を見た。
体全体は無残な状態だが、右腕だけが辛うじて残っていた。
「……そこで提案がある。もし_____」
「!」
男は雅の言葉に耳を疑った。
「そんなこと……できるんですか?」
「理屈ではな。だがそんなに考える時間はない。すぐ決めてほしい」
体中と口が震えて、思うように声が出せない。
「雅さんは……どうすべきだと思いますか?」
男は怯え震えた左手で雅の膝に触れた。
「……“私”(医者)はどんなときだろうと、患者の意志を尊重しなければならない。決めるのはアンタだ。だが私は、生きているアンタのためになるよう最善を尽くしたい」
彼女の真っ直ぐな目は、こんな戦の中での希望でもあった。
いつも負傷者のためにその身を医術に捧げて、どんな危機に瀕していても、常に冷静で正しい判断を下してきた。
だからこそ、彼女の意見に賛成した。
「…お願い…します」
男はあらゆる感情が渦巻き、さらに涙を流した。
・・・・・
こんなこと、普通なら許されるわけじゃない。
だから、この選択をしてしまった自分を恨んだ。
それでも、彼女を信じた。