第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
でも、銀たちは希望を失わなかった。昔の私とは違った。
松陽を取り戻すことを、諦めなかった。
まだ遅くない。救える。
私は左手で刀を強く握りしめて、固い決意をした。
“まだ終わってない。後悔する余裕があるくらいなら、やれることを全力でやりきれ”
今まで勝ち負けにこだわらなかったが、この戦は違う。
失ったものを取り戻すための戦だ。
勝てば取り戻すことができる。
勝つためならどんな手段だろうと厭わない。
敵に死神と呼ばれようが嫌われようが、誰になんと思われようが知ったこっちゃない。
嫌悪だろうが好意だろうが嫉妬だろうが優越感だろうが。
利用できるものは何でも利用する。たとえそれが、自分自身を殺すことになったとしても。
自分の幸せも、それに比べたら安いもんだ。
14歳から20歳になった私は、朝日が昇る空を見上げた。
(必ず取り戻す。だからそれまで待っていてください。“せんせい”…)
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現在
辰馬率いる軍は、断崖絶壁を一列になって慎重に渡っていた。
この先に目的地があり、そこへ向かうにはこの道しかない。
「うおッ!」
1人の志士の足場の岩が少し崩れて、その破片が底なしの真下に落ちた。
「さ、坂本さ~ん。下見ちゃいました」
「何じゃ。もうそんなギブアップか?そういうときは違うことを考えるんだ。難しいと思うから難しくなるんじゃ。例えば男のロマン!上にスカート履いたおなごがいるとするじゃろ?そうすれば上しか見られなくなる」
ドガッ
雅は落とさない程度に、後ろから辰馬に蹴りを食らわした。
「アンタのロマンス論なんて知らん。だがアンタが落ちればいいのは分かる。こんだけ深ければバカが治る」
「ほう。逆に怪我しそうなのに。おまんの治療法は万能で多種多様じゃのう」
雅はため息をついた。
「雅さん。落ちたらバカが治るってことは、馬鹿じゃない奴はどうなるんですか?」
「真面目そうなアンタなら死ぬね。馬鹿なら馬鹿力で何とかなりそうだが。“死神”(私)の子守唄よりも、よっぽどおっかなく死ぬ」
雅は口角も微動だにせず、まるで仏面のようだ。
はちまきがひらひらなびく程度の風も吹いているが、彼女は全く動じない。
(この高さなら、タワーオブテラーの方が上だな)
意外と余裕だった。