第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「松陽?」
どこの部屋を見てもいない。
こんな時間に外に出かけたのだろうか?
先生は半端者じゃないから、夜遊びはしてもいいってことか?
銀を起こして2人で探そうかとも思ったが、先に玄関を確認することにした。
戸を開けて外に出てみると、松陽がちょうどどこかに行こうとしていたところだった。
「松陽先生…」
私の呼びかけに気付いて、こちらを向いてにっこりと笑いかけた。
「雅。まだ起きていましたか」
刀も何も持っていない。外出するなら何かしらは持ち歩くはずなのに。
「いつも早寝な君が、こんな時間に珍しいですね」
「いつも部屋で書き事しているアンタが、こんな時間に珍しいですね」
お互いがお互いのことが言えるくらい、私と松陽は過ごしてきた。
「で、どこへ行くんですか?」
「そのへんです。とても大事な用がありまして。君は銀時の様子でも見に行ってください」
「こんな夜に行くほど大事な用なのに、
・・・・
そのへんって何でそんな曖昧なんですか」
この人は出会ったときからそうだ。
いつもニコニコしていて、おちゃらけている。
でも、不思議とその笑顔を不快とは思わなかった。
なぜなら、私のかつての師である“あの人”と、笑った顔が似ていたから。
「なら、私がその用を引き受けますよ。アンタがおそばにいた方が銀時も喜ぶでしょう」
「フフッ。アナタから率先するとは。変わりましたね。雅」
以前の彼女だったら、言われるまで何もしなかった。
自分から話しかけるなんてこともしない子だった。
しかし高杉との勝負から、徐々に皆との仕切りの壁が薄くなっていった。
今では、皆と肩を並べて夏祭りに行くほどの仲となっている。
以前より話し方にはっきり芯が入って、目も生き生きした。
「でもダメです。アナタはまだこれから先、己の足で歩くべき道があります。少なくとも、今はその時ではありません」
私はすでに勘付いていた。
松陽は自分の足で、暗闇の道に進もうとしている。どこか遠い場所へ行くのだ。