第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「いやいや何言ってんの!?そんなの断然銀時さんで決まりっしょ!」
突然向こうから大声が聞こえた。辰馬ほどではないが。
「今日も見ただろう。あの人の暴れっぷり…あの大軍に奇襲をしかける豪胆さ。“夜叉”(おに)のような戦いっぷり。敵にも味方にもあの人に勝てる奴はいないよ」
「何言ってんだ!!あの奇襲作戦は鬼兵隊の助けなくして成功しなかったぞ。近代兵器さえものともしない戦術。軍艦を落とす戦闘力。最強は“オレたち”(鬼兵隊)の総督。高杉晋助に決まってんだろう」
どうやら、この戦で誰が最強かについて熱弁している。
(まるで視聴者か読者みたいだ…)
雅はその輪に入る気は全くなく傍観者として、その会話に耳を傾けた。
「何を言うとるがじゃ」
さっきまで隣で熱弁していた辰馬はいつの間にか、輪のそばへ。
「この戦自体、誰のおかげで成立しとると思っとる!!兵・武器・金、あらゆるもんを誰かが工面してくれとるからじゃろ。
つまり最強は……桂浜の龍。坂本辰馬で決まっ…」
「それはないな」
「それがないのだけはハッキリ解るわ。あの人は金へのがめつさと声のデカさは誰にも負けないけどな」
さすが熱弁しているだけあり、皆はよく見ていた。
「……ああそう。小さい声も出るけどね」
あっさり拒否されて辰馬は落ち込んだが、雅は何のフォローもする気もなく横になった。
(明日も朝早いから、早く寝よ…)
右腰につけた刀とはちまきを外し、敷物をパンパン払ってきれいにしてから、その上に寝転がった。
中学の修学旅行みたく夜更かしして恋バナする気もなかった。
今回の遠征の目的は、遊ぶことではないのだから。
(これでも私は、常に皆の体調を気遣う義務がある。浮かれるわけにはいかない…)
「そういえば桂さんは?」
「……うーん、あの人は…正直よく解らん」
狂乱の貴公子、桂小太郎。
戦では攻めではなく味方を護るための戦をする。
容易にしかけず、しかけても容易に乗ってこない。
その戦い方で敵にこう揶揄されていた。
“逃げの小太郎”
堅実と言えば聞こえがいいが、下手すれば“臆病者”だ。
ヅラや高杉がいない今、志士たちはこんな会話をしていた。
雅は寝ていると見せかけて、その会話もちゃんと聞いていた。