第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「アイツを色男と思ってんのか?」
「また顔の話かアンタ」
宴の時といい、コイツは高杉に恨みでもあるのか。
強いていうなら、その色男の顔に嘔吐をかけられた晋助の方が辰馬を恨むなら、よっぽど納得できる。
「そうじゃない。ただ……」
松下村塾で、決闘を申し込んできたときからそうだ。アイツは…
「意外といい奴だってことを、よく知っているだけだ」
頑固だが、意外と仲間想いで意外と優しい。意外と良いところはある。
それにアイツは鬼兵隊の大将。みんなから信頼されている。
それに比べれば、私は医術にしか能がない。
昔は、医術を教わった“あの人”に誉められるのが嬉しくて、だから誉めてもらうために、医術に没頭していた。
なんにせよ、私は誰かと共に人生を分かち合うなんてことはない。
言ったはずだ。この戦が終わったら、アイツらとは
・・・
別の道を行くと。
「私はそういう普通の幸せは望んでないが、アンタのように好き勝手生きていくさ。アンタの言うとおり、私は仕事しか能のない奴だから」
今は、天人とそれに迎合する幕府に反旗を翻すために戦っている。
そして戦が終われば、目的は無くなる。
彼女はそれでも、独りになることを決めていた。
昔のような目的もなかった孤独とは違い、また新たな目的のために孤独になることを。
辰馬の言うとこはただの絵空事であり、一緒になるなんてことはありえないのだ。
「それに、私に限らずアイツもきっとそうだ。自分の道を行くために孤独になる。今のように一致団結して足並み揃える必要もなくなるからな」
特に晋助と銀だ。アイツらは水と油で同族嫌悪だ。
(でも私は、アイツに限らず、ここにいる誰もが幸せになってほしいと願っているさ)
一応、幼なじみだからな。
雅は腰をあげて、自分が寝る場所へ向かった。
「雅。これは覚えておけ」
彼女は足を止めて、背を向けたまま辰馬の話に耳を貸した。
「生きるということは、多くの縁に巡り会うことだ。生きてる限り、それらが無くなることは決してない。
おまんがいくら孤独になろうと、生きていれば必ず新しい縁ができる。いくら古き友を切り離そうとも、お前の思い通りになるとは限らんぜよ。特にアイツらはな」