第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
女にとっての幸せ。
辰馬の言うとおり、家庭を築き夫と子供と人生を分かち合うのは、1つの幸せ、人並みの幸せかもしれない。
だけと、雅はそんなことに興味がなかった。
「確かに私は女でありながら、医術を会得し、普通ではない左利きで、しかもこの戦場にいる。女という世間の縛りを一切無視して生きてきた。だから、人並みの幸せは、私には性に合わない」
「なるほど。現代風バリバリ働くキャリアウーマンってことか。江戸中の女がおまんのような奴だったら、少子化になるってことがな」
「いや何の話だ?」
雅は仕事はできて、人とのつきあいが不器用。
そういうところも、少し高杉に似ていた。
ただ彼女の場合、人一倍不器用だが。
「そんじゃ考えたことはないのか?あの3人の誰かと共に人生を歩むという選択を」
「それはつまり、あの3人の誰かに嫁ぐということか?」
このとき雅は意外に思った。
選択肢の中に、辰馬自身が入っていないから。
いつもなら、「ワシと宇宙をまたに人生を共に歩むかァ!」とか下らないことを言いそうなのに。
「本当に冗談や口は達者だなアンタは。まさかお似合いと言いたいのか?」
「何というか……おまんは高杉とけっこう気が合うと思っただけじゃ」
しばらく無言でいると、向こうでたき火を囲ってる仲間たちが、こっちを向いてヒソヒソしていることに気が付いた。
声は聞こえずとも、きっと「いい雰囲気そうだ」とか「さすが恋愛マスター。雅さんと盛り上がっている」とか言っているに違いない。
(晋助か……)
鬼兵隊総督。私と同門。あの負けず嫌いな少年。
今まで共に過ごしてきた仲だからこそ、確信があった。
「私にはもったいない男だ。アイツは」
「!」
・・・・・
『私は、そんなもののために“ここ”(戦場)にいるわけじゃない』
雅は前にこんなことを言っていたことを、辰馬はよく覚えていた。
他の仲間からもらった恋文でさえ、仕事に支障をきたすと断っていた。
(じゃコイツ、もしかしたら……)