第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
雅はため息をついた。
(銀や晋助の喧嘩もそうだが、やはりコイツみたいな、頭の中も髪もフワフワしてる奴ときたら…)
「じゃ、ワシがおまんと見張りしてもバチはあたらんじゃろう。隣、失礼するぞ」
辰馬は特等席に座ることができて、ご満悦の様子だ。
(高杉の奴。きっとまた嫉妬するじゃろうな)
この恋愛マスターはお見通しじゃ。
高杉は誰よりも、雅の良き理解者になりたいと想っていることくらい。
決してコイツの実力が心配じゃからとか、女だからとかそんなんじゃなか。
ただ、“好き”なだけなんじゃ。コイツのことが…
高杉はきっと戦が終わった後でも…
「んで、話ってのはなんじゃ?」
辰馬はいつものような馬鹿笑いを浮かべていたが、雅は全く笑うどころか、思い詰めたような顔をしていた。
「……アンタは確か、戦が終わったら、“宇宙”(そら)に行くって言ってたな」
「おう。よく知ってるな」
以前彼女は、銀時と辰馬の会話を盗み聞きしたことがあった。
それは、今と同じ肌寒い夜のことだった。
2人は瓦屋根の上で空を見上げていて、高杉と桂と雅はその下で一休みしていた。
当の本人の銀時は、寝ていて全く聞いていなかったが、雅の耳には入っていた。
「まだ先の話じゃがな。ワシは元々、戦なんて大それたことより、顧客のグチを聞くことくらいが取り柄じゃからな」
「確かに、アンタほどいつもヘラヘラしている奴なら、その方がお似合いだな」
雅は懐から新しい包帯を取り出し、左手に巻き直した。
さらに煙管を出して、一服し始めた。
「一応、おまんの医者の身じゃろう。お酒も好きな上たばこやって、大丈夫なんか?」
「人一倍遊郭に繰り出しているあんたに忠告する。下手に多くやれば、性病になるぞいつか」
煙管をふかしながら、恐ろしいことを平然と言う。
医者とは普通、患者を安心させるのが役割でもあるが、彼女の場合は脅しだ。
「アハハハハッ。おまんに心配されるのも、本当に滅多にないことぜよ。雪どころか雪崩が来るかもなあ!」
(普通でも十分聞こえるから、頼むから隣でそんなデカい声出すな)
先日、広間で飲んだときとデジャヴだった。