第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「ほぉ~、おまんが直々に頼ってくれるとは、光栄なことぜよ」
そう言いつつも、辰馬は何となく察していた。
あの孤高の雅が話を持ちかけるくらいだから、本当に並々ならぬ事情があるのだろうと。
それも、幼なじみである高杉たちではなく、会って間もない自分に言うのだから。
「ただそれは夜、安全確保して寝床を見つけてからだ。あいにく物資には酒がないから、今夜はうまく寝付かなさそうだが」
「ガハハハッ。お楽しみは後に取っとけとも言うしな。楽しみじゃ。じゃおまんが子守唄歌えばいいんじゃないか? こんな戦におなごの歌声なんて、酒以上に睡眠に効果てきめんじゃのう」
「歌うかそんなモン。アンタは子守唄なしでも永遠に眠ってろ頼む」
やはり、辰馬の冗談には呆れるものだ。
その夜
夏でも意外と冷え込んだ。
野宿にちょうど良さそうな場所で、皆は焚き火をあげて英気を養っていた。
その中で雅は輪から外れて見張りをしていた。
(おい…お前が言ってこいよ。見張り代わりますって)
(だがよお、やっぱ話しかけづらいというか…)
(高杉さんや銀時さんは幼なじみならともかく、俺たちが気安く話しかけていいのやら)
彼女を羨望の眼差しで見る者が多くいるが、短所で言えば、気軽に接することが難しい相手なのだ。
松下村塾にいるときから、彼女にはそんな貫禄やオーラが漂っていた。
そして彼女も、自分から輪の中に入るような性分でもない。
「おいおいおまんら。女子に声一つもかけれんとは、片想い中の中学生か?」
「坂本さん」
この男、坂本辰馬は全く別の意味の貫禄を持っている。
「しょうがないのう。ワシがお手本を見せちょる。恋愛マスターのスキルをなめるなよ」
さすが、仕事をほっぽって遊郭に行ったことのある男は、女を口説くテクもお手のものというところか。
「おーい雅。そんな場所で辛気くさい顔せず、皆で恋バナでもしようぜよ」
「勝手にやれば」
即答で拒否されて、恋愛マスターはあっけなく敗退した。
「アハハハッ!このワシが振られるとは。雪でも降ってくるかのう!」
「いや、もう夏ですからあり得ませんって」