第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「…アンタを見くびっていたよ。一応、アンタもこの軍を率いる将だもんな」
「ハハハッ。遊郭で女を見る目も肥えてるからのう!」
「雅さん辰馬さん!」
前の方を歩いていた志士が、ゆっくり歩いている2人を案じて来た。
「早くしないと置いていきますよ!」
「ああ。すまない」
そうだ。今、私たちがいるのは戦場だ。
いつ襲われるかも知らないこの地で、仲間の安否よりもこうしてのんびり郷愁に浸るのは場違いだ。
「私は私自身のことを誰かに話すつもりはない。無論アンタにもだ」
冷ややかな目に人を引き離すオーラ。
いつものように、無愛想に振る舞って距離を置こうとした。
しかしこの坂本辰馬は、そうはいかない。
「じゃろうな。恐らく、
・・・・・・・
口止めされてるってえところじゃろう」
「!!」
雅はこの時の辰馬の笑顔が、不思議と怖いと思った。
「ど…いうこと?」
「ワシはな、医術関係の取引もやったことがあるんじゃ。相手のほとんどは中年で、おまんのような若い女はいなかったの。じゃから、おまんの医術の知識と技術は優秀過ぎるのはよう分かる。そして、それを教えたおまんの師匠もな」
「……何が、言いたいんだ?」
「おまんほどの医術が世に広渡れば、この国の医療技術はとっくに、今より圧倒的に勝ってる。宇宙に轟くほどのな。なのにそうしないのは……もしかして、おまんの師匠は…」
バッ!
雅は刀の刃先を辰馬の喉に向けた。
「口が達者なのは結構。だが過剰な詮索は気をつけた方がいい」
辰馬は「あーやっちゃったかのう」と、雅が本気で怒っていることに苦笑いした。
「どうして私が“死神”と呼ばれるのか、本当の理由を、アンタは知ることになるぞ」
「す、すまん」
「……いや、私も少しやりすぎた」
雅は我に返り刀を鞘に戻した。
「おまんに、並々ならぬ事情はあることは分かった。このことは、皆に言わんようにする」
「ああ、頼む。そして、アンタには別のことで話しがある」
「!」
周りを見渡して、話を聞かれる恐れがないことを確認した。
・・・・・・・・・
「松下村塾生じゃないアナタだからこそ、頼みたいことがある」