第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「勘じゃ」
辰馬はニカッと笑った。
「……吉田松陽が教えた、とは考えなかったのか?」
「松陽?おまんや高杉とヅラと金時たちに、剣術を教えた師範か?」
雅は頷いた。
「なあに。普段のおまんらを見れば、よう分かるぜよ。おまんらは同じ師を仰ぎながら、礼儀正しさも考え方も全くバラバラじゃろ」
桂は天然気味だが真面目。
高杉は頑固で素直じゃない所があるが、松陽のことを特に尊敬していて授業にはちゃんと参加。
銀時に至っては、授業では寝ていることが多く、“全くだらしない男”。マダオだ。
そして彼女は、昔から協調性はないが、目的のためなら己自身を最大限に支配するという、いわゆるスパルタだ。
「つまり、松陽は礼儀作法や考え方を特に強要もせず、“おのが信じた道を行け”と教え導いたんじゃろ」
さすがは“桂浜の龍”。異名で呼ばれるほどの男である。この勘の良さ。
雅は辰馬に感心した。
「…ああ。松陽は、私にもそう教えた」
カラスが鳴いていた夕方、あんなことを言っていた。
『自分が決めた道がたとえ始めが暗闇でも
信じて進めば必ず光が照らす。周りの支えが…仲間がいれば、人はまた歩き続けるのです』
そして続けてこうも言っていた。
『どんなにつまずいても構わない。何度つまずいて、何度挫けても、君は君の思う道を信じて行けばいい』
この戦いは、後悔したくなることはない、なんて言い切れるほど生温くはない。
でも、私がここまで来れたのは、その松陽の教えと信じてくれる仲間たちのおかげだ。
本当に、あの人の言うとおりだった…
「一番弟子でもある銀が自由奔放に育ったのも、松陽の教えでもあったんだろう」
「そうじゃろうな。
・・・
だから、礼儀作法が誰よりも美しい、まさに“雅”のようにおしとやかなおまんは、以前に誰かから高い教養を身に付けたんじゃないかと考えたんじゃ」
辰馬は人を見る目がある。
普段も仲間たちを気にかけているから、皆の立ち振る舞いや言葉のなまりだけで大体、どこの生まれでどんな経歴を持っているかが分かる。
その中で、特に雅のことが気になっていた。
「察するに、その松陽はおまんらに
“生きる術”(剣)を教え与え、そしておまんのかつての師匠は、おまんに
“生かす術”(医術)を教え与えた。そうか?」