第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
ため息をついて、刀を鞘に収めた。
「おまんはすごい足が速いからの。追いつくのに一苦労したがな。言われたことはないか?」
「足の速さに関しては、言われた覚えはないな」
「じゃが、これくらい来られれば、あとは目的地に向かうだけじゃ。おまんら!緩やかにいこうぞ!あまり気ィ引き締めても疲れるだけじゃ」
『はーい』
(「締まっていこう」じゃないのか)
今日雅は、辰馬率いる軍と同行している。
そして、彼らの目的は、この広い戦場の偵察だ。
戦場で生き抜くためには、その地形を敵よりも知ることが重要だ。
敵をおびき寄せたり回り道して挟み撃ちにするなど、巧みな戦略ができる場所を探すことも、今回の目的である。
(この場所、以前はただの平野だったのに…)
緑色が広がっていたのに、今は焦げ茶色だ。
恐らく、多くの血が流れて、それが酸化して濃い赤色、つまり茶色に近い色に変わったのだ。
敵はあらゆる近代兵器を使うから、人工的に作られた化学物質で、空気汚染にもなっている。
ここだけじゃなく、戦場全体の環境が悪化している。
(戦は人だけじゃなく、自然にも大きな不幸をもたらす、なんてな)
私は職業柄、傷によく効く薬草がそこらへんに生えていれば好都合だ
だが、この戦場のありさまじゃ期待はできないだろう
私たちの拠点の近くに川があり、そのそばにはいくつかあてがあるが…
「見ない間に、ひどい有り様になっちょるな」
辰馬も周りの変化に気付いていた。
普段のほほんとアホをやってる奴だが、意外と鋭いときもあるということだ。
「戦が生み出すのは、勝利と敗北じゃ。そして、たとえ勝利しても、亡くした仲間たちは決して帰ってこん。戦の爪痕は、決して癒やすことはできんの」
「…そうだな」
「そして、この場所も、かつては美しい緑が広がっていたはずぜよ。敵側が相手を見つけやすくしようと、木々を枯らせてしまったんじゃとよ」
「よく知ってるな」
辰馬は仲間を介してそのことを知った。
その時は怒りに似た感情が沸き立ったらしい。
自分たちの地球が汚された気分になったらしい。