第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
「そ、そんなバカな…」
「隊長が、ただの女サルごときに…」
たった1人の女剣士とここにいる数十人の天人との、力の差は歴然だ。
女剣士は自分の刀の刃こぼれを気にしていて、余裕が見られた。
ヒソッ
(撤退すべきなんじゃないか?)
(そうだ。あんなのに勝てるわけねえ…)
(バカやろう…!隊長が殺された挙げ句、しっぽ巻いて逃げろってか?たった1人相手になんだその弱気は!?)
(生き残んなきゃ敵は倒せねえだろッ!コイツは諦めて、今は生きることだけを考えろ)
「確かに、その方が賢明かもしれないな」
『!』
天人たちの声は雅には筒抜けだった。
「命は簡単に粗末にすべきものじゃない。今回の私の任務は、お前たち敵の殲滅じゃない。仕掛けてこない限り、私からは出ない」
「ハッ!油断させる作戦か?意外と汚ねぇマネするんだな」
挑発にも全く動じず、自分の刀を鞘に収めて、むしろ余裕のヨッチャンでいた。
(おい…この“青い死神”の本名ってなんだ?)
1人の天人が仲間に聞いた。
(あぁ?何でそんなこと聞くんだ?)
(バカ!今の戦い見ただろ!あんな戦い出来るのは、普通の人間じゃあねえんだよ!色んな星を巡っては戦を勝ち抜いてきた奴かもしれねえ。あの、どこの馬の骨とも知らねえ“馬薫”って傭兵と同じ類かもしれねえんだよ)
人間ではない天人たちに、人外呼ばわりされている雅。
彼女はその声も筒抜けだった。
こっちに向けられた、獣に怯えているような目。
「……」
(この女の名前?えっと、確か…)
「雅!おぉーい!」
戦場の向こうから、辰馬率いる軍勢が押し寄せてきた。
「あれは!“桂浜の龍”!坂本辰馬!」
「あんな遠くにいるのに、ここまで声が届くとは、なんつーデカさだ!」
「おかげで、もう撤退するしかないな!」
天人たちはしっぽを巻いて逃げていった。
「いやー遅れてすまんのう雅。うちの看板娘が無事で良かったぜよ」
「いつから居酒屋になったんだここは」