第10章 約束ってのあ、守れなかったときが残酷だ
戦場にて、
ワアアァッ……
曇天の空の下、攘夷志士たちは天人を倒さんと剣を振るう。
その中に雅もまたいた。
バシュッ!
敵の体の急所を鮮やかに狙い斬るその姿に、周りは怖じ気づいた。
「おい!アイツは死神!“青い死神”だ!」
「間違いねえ!左利きに青い髪だァッ!」
「そこの女戦士!青い死神と見受けるッ!!」
そこに見た目も態度もデカそうな天人が現れた。
他の天人は、心強い助っ人が現れてホッとしているようだった。
「……」
雅はそれに怖じ気づくこともなく、全く表情を変えない。
天人はそのでかい態度が癪で、大きな声で名乗った。
「先日、俺の8人の部下がお前に直接始末されたと耳にした。まさかここで会うとはッ!」
「そんなことを言うために、わざわざ私の前に現れたのか?」
ここは戦場だ。握手会じゃない
それに生憎、私にとって、手は患者を救うためにとても大事なものだ
天人にくれてやる手なんてない。もちろん握手の手もお断りだ
「そんなワケなかろう。部下たちの無念は、俺が今ここでケリをつけるゥッ!!」
バイソンのような貫禄と、投げたボールのようにまっすぐに突っ走った。
背中のデカい棍棒を掴んで大振りした。
雅はそれを回避したが、振った衝撃で突風がふいた。
ビュウンッ!!
あまりの天人に吹き飛ばされる者もいた。
(敵の一撃。復讐心が丸出しだ…)
雅は地面に生えている岩を右手で掴んで、風圧に堪えた。
(こっちは恨みはないが、戦場にいる以上、敵からの挑戦に応戦するのが、敵としての礼儀だ)
雅は逃げることはなく、敵に真っ正面で立ち向かった。
自分の数倍デカい敵の攻撃も、しなやかな身のこなしでかわす。
雅は低い姿勢で棍棒の突風に乗って素早く駆けた。
敵が大きな棍棒を振りかざした瞬間、その時を待っていたかのように、さらに加速した。
(何?コイツ、まだ早く…!)
敵が棍棒を振り落とすよりも先に、彼女が足を斬るのが速かった。
バランスを崩した敵は膝が地面に付いて、雅はその瞬間、大きな体の急所を貫いた。
「み、ご、、と…」
敵は、安らかな表情をして倒れた。
仇を撃てなかった悔しさより、最後に強大な敵と戦えたことに満足して命を落とした。