第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
「晋助。私はこの戦、実に皮肉だと思っている。今私たちは、そんな奴らのために仲間を犠牲にして戦っているのだから」
雅は自分たちの状況を振り返った。
今私たちは、国を守るために戦っている
何か大きなものを得るためには、多くのものを犠牲にしなければならない
この戦に勝ち、たとえ松陽を助けられたとしても、それまでに今以上の仲間を失うことになる
そんな私たちを、松陽は「よく頑張った」と言ってくれるのか
それとも「無茶をするのは相変わらずですね」って、またあの固いゲンコツをくれるのか
死体を見慣れている彼女でも、仲間の死を見るのは嫌だと願うことがある。
しかし彼女は決して弱音は吐かない。
医者たるもの、心も体も傷付いた患者を安心させるために、常に冷静でなければならない。
以前、戦友が苦しむのを見るしかできない志士が泣いてお願いした。
『俺の親友を……大切なダチを助けて下さい…!お願いしますッ!』
その時も雅は全く取り乱さず、むしろ笑顔で「必ず助ける」と約束した。
誰から見ても彼女は完璧で、侍としても医者としても鏡の存在だ。
それでも…
雅はそっと自分の胸に手をおいた。
「私の命は、もう私だけのものじゃなくなっている。繋いでくれた仲間たちの想いは、私たちが必ず遂げなければならない。
アンタは仲間の命を背負って、その先生きていく覚悟はあるか?」
「お前……」
雅がここまで仲間について語ることが意外だった。
昔の彼女だったら、絶対に有り得なかった。
高杉はそんなこと考えてなく答えに戸惑った。
「俺は…」
「あ!雅さん!総督ッ!」
するとそこに、さっき見舞いに行っていた志士が戻ってきた。
「アンタか」
「はい俺です。お話中すいません。少し俺も話したいことがあります」
さっき患者の戦友と談話をよほど楽しんだのか、サルみたいに心をウキウキさせていた。
「俺は、攘夷四天王の皆さんと…何より雅さんがいれば、この戦に絶対勝てると信じています。
うまくいけば、将軍様に認められて官軍になれるかもしれませんし」
『!』
そして、明日戦へ行くとは思えないくらい、満面の笑みを浮かべた。
「俺たちの力を幕府に見せつけて、この調子でさらに上を目指しましょう!」