第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
彼女の言っていることは事実だ。
この国は忠誠が絶対で、将来侍になる子供たちを反乱分子にするような教えを説くことも決して許されない。
かつて松陽もその疑惑があり、何度も追い出されたことがあった。
高杉もあの夜、まさにその時を経験した。
「私のように、生死をさまよう重度のケガを治せる医者は必要じゃなかった。向こうからしたら、私のやり方は非合理的なのかもしれない」
医療品や治療に必要な道具などの必需品は、確かに戦の経費として大きくかさ増しする。
どんなに腕利きの彼女でも、専門の道具がなければ打つ手がない。
彼女は戦の経費を出す商人の辰馬本人と、交渉をしてきた。
高杉と同様に仲間想いの辰馬だから、彼女の必死に命を救うための要望には何でも応えている。
ただ現実はそんな甘くはない。
彼女は自分の医療経費のために苦悩している辰馬に、時々感謝と申し訳なさを覚えていた。
根はおちゃらけていても、商人としての任務を全うしている。やるときはやる男。
辰馬のノリは苦手でも、そういうことに感謝しているから、彼女は酒の付き合いもする。
あと、彼女は注意していることがあった。
それは、自分の“存在”とその“正体”が広く知れ渡ること。
敵側だけでなく国にも。
今では雅は、“翡翠の巫女”や“青い死神”などあだ名が付けられるほど知れ渡っている。
しかし、彼女が最も本当に恐れているのは、“自分が持つ医の術”が知れ渡ることだ。
松陽とは別の師匠に特別に教わった、唯一無二の技術。
その異常な技術は、今の時代の医療を軽く上回っている。
高杉だけでなく、桂や他の仲間たちもとっくに知っていた。
だから彼女は戦が始まる前に、皆にある警告をした。
“私の存在は、なるべく国や世間には内密にして”
一度、仲間の1人が雅に弟子入りしたことがあった。
しかし彼女は今までにない怖い顔をして、「ダメだ」と強く否定した。
その表情を高杉は今でも覚えていた。
“特別”なくらいの医療技術を持つ“師匠”。
あの雅が心から尊敬するほどの存在。
高杉はその存在にますます興味が出ていた。
(コイツがあれほどお喋りになって尊敬する師か。一度お目にかかりたいもんだねえ)
だが、生きているかも分からねえ