第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
笑顔。
戦は絶望的で兵士たちの心は廃れる中、必要なものだ。
笑顔があれば、人は自然と前向きになれる。
辰馬も普段、ただへらへらと笑っているわけじゃない。
仲間の心が少しでも前向きにしたいと思っているからだ。
この志士もまた、前を向いて笑っている。
志士が立ち去ったあと、高杉も自然と笑みを浮かべた。
「雅。俺はお前と違ってネチネチ考えることは嫌いな性分だ。先のことなんて、その時になったら考えらあ」
先のことを考えるなんてバカバカしく思った。何故なら、大事なのは『今』なのだから。
「この先のことをずっと考えたとしても、今が変わんなきゃ未来も変えられねえ。そのために、今は“今”のために最善になるよう全力を尽くす。それだけで十分じゃねえか?」
「……それがアンタの答えか」
時刻はとっくに、彼女が眠りにつく時間。
雅はおやすみと一言だけを言い残して、高杉と別れた。
(あの夜。松下村塾で外に出たあの時。アイツは、泣いていた)
あの光景は、この先も忘れることはねえだろう
そして数年が経った、その理由が何となく分かってきた
(かっての師匠を失ったから…?)
アイツが心の底から尊敬するほどの腕を持つなら、幕府に因縁づけられてもおかしな話じゃねえ
下らねえ幕府の野心に巻き込まれた可能性も…
(そもそも俺は、奴の生みの親でさえも知らねえ)
アホの銀時はどうでもいい
雅の普段の立ち振る舞いや手つきは上品な上器用な気がする
それなりの身分だったってことか
(もし俺の予想が本当なら、アイツは今まで、
・・・・・
どんな想いで、松陽先生を見ていたんだろうな…)
さっき『松陽と似ていた』と確かに言っていた
自分の師匠と重ね合わせていたんじゃねえか?
着物のポケットから、さっき雅がほどいてくれた古いテーピングを取り出して、握りしめた。
(アイツは、俺にとって大事な存在だ。この先はどうとか言ってたが、俺はこの先も“アイツ”のそばにいてェ)
雅の師匠とやらも、もし出会えたら、酒でも酌み交わしてみたいもんだな…
高杉も暗い部屋を進んで、自分の部屋へ戻った…
次の日
「雅さん…今アンタ、何て言ったッ!!」
「言葉通りだ。“切断”する」