第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
ダチは周りを気配り小さな声で話しかけてきた。
「うん。急に男手が必要になって。パシりにさせてもらっている」
雅は即座に自然な回答をした。
「ハハハッ。俺たちを先導している総督が逆に先導されてるなんて新鮮ですね」
「笑うんじゃねえよてめえ」
そばで寝ている男は、お腹の銃創に響かないように笑いこらえていた。
「私たちはもう戻る。アンタも面会時間は程々に。行こう晋助」
「ああ」
雅は空気を呼んで、ダチと患者を2人きりにさせた。
自分たちがいてはプライベートな会話はしづらいと思ったから。
そしてまた高杉と廊下を歩いた。
「お前、医者としての配慮は一品だな。おかげでアイツらも元気になったみてえだし」
「料理みたいに言うな」
彼女といつもより会話できて、高杉は内心嬉しく思っていた。
「今でも思うぜ。優秀な医師のお前がいなかったら、俺たちはこの戦で間違いなく詰んでいたってな」
「……」
しばらくすると、雅は歩くスピードを徐々に緩め、こんな質問をしてきた。
「この国は今までの戦において、私のように
・・・・・・・・
重症患者を治せる軍医を必要としなかったんだ。何故か分かる?」
「?」
高杉は「何でだ?」と聞き返した。
「国は侍を“消耗品”としか見ていないからだ」
「!」
ヒュウ…
雅は風が吹く外の方を眺めた。
「侍は国への忠誠と奉仕のために剣を振るい、倒すべき敵を斬るのが使命。だから国のために戦い死ぬのが侍としてのあり方で本望だと、
・・
奴らは勝手に決めている。
“内臓や四肢をやられ、侍としての己を失った者たちはもう侍じゃない。重要なのは、
まだ使えそうな兵士の命だけを助け、残りは労力と時間の無駄だから切り捨てる”
こんな非人道的なことが当たり前のように行われていたんだ」
高杉は無意識に握り拳を作った。
雅はそれをチラッと見ながら話を続ける。
「現状では、そんな“本望”で死んでいった仲間たちも数知れずいる。その中で
「何故自分だけが助かった?自分のせいで仲間は死んだ」と、仲間の死と自分の生のジレンマに襲われ、自ら命を絶った人間も私は知っている。
国は「例え助けたとしても、勝手に死ぬから救う価値はない」と思っているんだ」