第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
雅は「桜のように散っていたい」とか、たまに訳の分からない例えをしてくる。
医術のセンスは天才的なのに、日本語力は人並みかそれ以下なのか?
「俺の軍の奴の容態を見ておきたい。リーダーなら当然の配慮だろ?」
「…好きにしな」
こうして高杉は雅とまた行動を共にした。
〈医務室〉
ここには、包帯を巻かれているけが人が何人もいる。
この場所以外の個室に、重症患者や感染症の恐れがある患者もいる。
二次災害で戦える者が感染するのを防ぐために。
現実世界の日本では、かつて戦前、結核という難病を煩った人が“隔離”施設にて治療を受けたということもあった。
“隔離”というのは差別用語みたいで、彼女も患者を別々にすることにあまりいい気はしなかった。
しかしそれは皆のためだと、周りの人たちは分かってくれていた。
雅と高杉は患者が寝ている間の通路を通って、仲間の容態を見回った。
「雅…先…生?そ…とく?」
1人の患者が2人の存在に気付いた。
その男は、以前5発もの弾丸を食らいながら、雅の手術によって命を取り留めた、鬼兵隊のあの軍士だった。
「よお。元気にしてるか? けが人にこの問いかけはねえか」
高杉は微笑みかけた。
「すいま…せん。明日の戦に出られず…俺」
「いや、アンタはあの時勇敢に戦った。アンタのおかげで助かった人もいる」
自分のダチを守るために、危険を省みず盾になった。
雅はそのダチから聞いた、彼の勇気ある行動を決して忘れてはいなかった。
「死ぬなよって…忠告した途端にこのザマとは。アイツに…カッコ付かなかったなあ」
男は特に、仲間に自分の無様な姿を見られるのを嫌う。
雅はそんな男たちを何度も見てきて、そのたびにいつものため息が出てしまう。
「こんな命張ってる毎日に、かっこよさも悪さも関係ない。それに、アンタのダチが聞きたいのは、そんな言葉じゃない」
「…そ…ですね。じゃあ伝えといてください。『俺よりも先に逝くんじゃねえよ』って」
「いや…その必要はなさそうだ」
高杉は向こうから誰かが向かってくるのを見ていた。
それはなんとタイミング。例のダチだった。
「雅さん。それに総督もいらっしゃったのですか」