第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
“むしろ、私に似付かわしいよ”
(あの言葉は、そんな意味合いも込められていたのか…?)
「松陽とは対照的みたいな人だったが、少し人間離れしているところは似ていた。
松陽が“剣の達人”と言うなら、その人は“医術の達人”だった。両者とも、私など足下にも及ばなかったよ。
…これで満足?」
「あ、あぁ…予想以上だった」
高杉は唖然としていた。
彼女からこんな長話を、松下村塾でも聞いたことがなかったからだ。
雅の言う“医術を教えてくれた先生”とやらに、彼女は相当信頼を寄せていたと見受けられた。
話してる間の、彼女の安らかな表情で分かる。
その先生のことを何度も思い返しながら、彼女は“別の先生”(松陽)と共に日々過ごしていた。
(そんな奴がいたんなら、何でだ?)
何で奴はあの松下村塾にいた頃、誰にも心を許さなかった?
今だにそうだ。他の奴らとは違って、コイツとの間には壁がある
松陽はそれが心配で俺たちに仲良くするようにけしかけたからな…
俺がこうしてコイツといることができるのは、“用事”(治療)があるからに過ぎない
(俺も先生に会うまで、誰にも心を許さなかったな。ヅラとはたまに絡んだが。
自分の生まれや下らない肩書き、身内にも…いや、もう勘当されて赤の他人だな…)
だが、お前にはそんな大切な奴がいたなら何故…
そもそも今“ソイツ”はどこに…
『自分は何も出来ず、大切な人が目の前で死ぬなんて。辛いに決まってる…』
(!! 待て、あの時…)
『ケガなら技術と薬さえあれば治せる。けど、大切なものを失った痛みは、簡単に治すことは出来ない』
高杉の頭に浮かんだのは、あの夜に告げられた二言。
(まさか…あの言葉も…)
雅。お前…まさか…俺たちよりも
・・・
すでに…
雅は腰を上げて、部屋を出た。
「どこに行くんだ?」
「寝る前に、患者たちの様子を見てくる。アンタも明日の戦に備えてもう寝た方がいい」
表情はもう、いつものような冷静な無表情に戻っていた。
「…いや、俺も行く」
すると今度は少しだけ嫌悪の表情を見せた。
「晋助、前から思ってたがアンタ…
多数決取るとき、皆に合わせて多い方に手挙げるタイプじゃないか?」
「は?」