第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
夜
午前の馬鹿げた茶番に、午後のすいか割り込みのどんちゃん騒ぎの後、高杉は涼みに廊下を歩いていた。
季節はもうすっかり夏で、最近寝間着をじんべえに変えたところだった。
(昼は余計な体力使っちまった…今回ばかりは銀時に同情するぜ)
やられたらやり返す倍返しだ。いつかこの仮は返してやらあ
その時は、“アイツ”(雅)にでも協力してもらうか
アイツがまさか、あんな演技派とは思わなかったしな
高杉はそんなことを考えながら、雅の部屋の前に到着した。
またいつもの検診を受けに。
しかしノックをしようとしたら、部屋の襖が微かに空いていた。
多分、蒸し暑いから部屋の窓と入り口を開けておくことで風が通りやすくしているのだ。
(中にいるのか?)
そういや昼は辰馬が、部屋に入ることでこっぴどく注意されていたが…
高杉は恐る恐る襖の僅かな隙間を覗いた。
そこには彼女が机に向かっている後ろ姿があった。
(アイツ、こんな暑ィ夜もお勤めか?)
桂も休めって言ってたが、負傷者の管理で忙しいのか?
どうする?また改めるか…
「別に忙しくない。入っても構わない」
「!」
背を向けたまま、部屋の外にいる高杉に声をかけた。
「負傷者の治療が優先だ。遠慮はいらない」
「…邪魔するぜ」
高杉は念のためノックをして、患者らしく控えめな姿勢でゆっくり部屋に入った。
雅は高杉を座らせて、患部の足首に触れた。
「うむ。腫れもすっかり引いていい兆候だ。これならもう大丈夫だ」
「そうか…」
傷が良くなっていることは、医者と患者にとって喜ぶべき事だ。
しかしこの時の高杉は、少し寂しく思っていた。
その理由は彼自身も、何となく分かっていた。
それは、雅の部屋で彼女に傷を見てもらうのが、今回で最期になるからだ。
(これじゃあ雅に色仕掛けしてる奴と同じじゃあねえか…)
俺ァただ、コイツと2人で話す機会が無くなるのが少し残念なだけだ…
「もう終わった」
そうこうしている内に、雅のテーピングが終わってしまった。
「あ、ああ。ありがとうな…」
もう用事が済み、あとは退出するだけみたいな雰囲気になってしまった。
どうする。何か別の話題でも出すか…
「昼は悪かった」