第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
「今度ワシも死体のメイクをしてもらおうかの」
「安心しろ。俺ならいつでもてめーを死体にしてやるよ」
「アハッハッハッハッ。そりゃごめんぜよ」
辰馬は話の流れで雅にこんなことを質問した。
「こんなお作りが出来るんなら、普通の化粧だってできるじゃろ。今日はせっかくの休日じゃし、外に出ずとも少しはおめかしでもしたらいいんじゃのうか?」
周りは一気に緊張のムードになった。
このあとの彼女の行動は2つ考えられる。
1つはガンを飛ばして無視するか、もう1つは「余計なお世話だ」と言い捨てるか。
雅は物語序盤や今までに何回か、女を意識させるような言葉を好まない描写もあった。
今はひとときの休みでも、血なまぐさい戦が続く日々。
自分の仕事(医者)を阻害する“私情”や“行動”など、余計なものは排除するのが彼女の流儀だ。
辰馬の発言は、女である彼女を労ったつもりかもしれないが、
言い換えれば、「女だから化粧くらいするのは当然」という価値観という捉え方もある。
雅はいつもと一回り大きいため息をこぼした。
彼女は癖で、呆れた時必ずため息をこぼす。
((ヤバい…))
「そんなことに費やすくらいなら、私は私のやりたいように使う。何より、化粧用品の原料が医療薬品に影響を及ぼす可能性も否定できないからそれはできない」
意外にも大人のような対応で話した。
「そうか? それは残念じゃのう。おまんのおめかし姿を見てみたかったの」
「3週間前、物資調達と偽って遊女と過ごしたアンタなら、仕事にしか能がない奴よりもあてがあるだろう」
そのたった一言で、一瞬で辰馬に視線が集まった。
「ち、違うんじゃ!ワシは調達の途中で、チンピラに絡まれたおなごを助けて、それで向こうが誘って流れで…要するに、道具ではなく英気を調達したというか…」
「うまくないですよッ!」
「まさかあのお金そんなことに費やしたんですか?!」
雅とは全く違う有効活用だ。
相変わらずの辰馬に笑う者もいれば呆れる者もいて、この大広間はまたとてもうるさい喧騒と化した。
(これは…)
愉快な仲間に囲まれた雅。
高杉はそれを見て、幼少期に彼女と対決した“あの後の光景”と重なった。
(アイツ…)
不意に柔らかな笑みをこぼした。