第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
2人の逆鱗に触れないように、雅が事の経緯を説明した。
再起不能になっているヅラには無理で、普段も2人の逆鱗に触れる辰馬は論外だから。
この計画は昨日の夜、桂が提案したものだった。
戦続きで全く息抜きできなかったから、ちょっとしたエンターテイメントを用意しようと。
現在気絶した桂の有り様から、2人には全く不評の結果であったが…
そしてその内容は辰馬が決めた。
“死神”と恐れられる雅を全く違う別物の“死神”としてサプライズするという。
「もちろん雅の了承はバッチグーじゃ!」
辰馬はそう満足そうな笑顔を浮かべたが、雅はいつもと変わらず無表情。
ただいつもと違うのは、赤いりんごを食べながら話を続けた。
「辰馬の言うとおりだ。私も賛同した。ケガして体が一時的に不自由な患者に、こういう余興も必要だからだ」
銀時は腰を抜かしてその場に座り込んだ。
「はあ~、ッてことは昨夜のもグルだったのかよ。まんまと騙されたぜ」
「悪かった。パクヤサが使った生クリームがまだ残っているから、それで勘弁してくれ」
「あんな泡ふきクリームなんざいらねえよ」
一旦状況を整理しよう。
桂が血を流して台所で倒れていたのはトマトジュースを使っていたからで、体の冷たさは事前に氷で冷やしたからであった。
その前に高杉に偶然会ったように見せかけ、真意は体調が悪いことを見せつけるためであった。
そしてパクヤサが泡を吹いていたのは、あれはただ生クリームを口から出しただけだ。
他にも様々な工夫で、2人を端から見たら死の間際のような演出にすることに成功した。
驚くことに、この偽装工作を指揮したのは雅だった。
彼女は医療方面に関してはプロの中のプロ。
皮肉にも、重症患者や死体を処置してきた経験が、死体の偽装に生かされたのだった。
そのクオリティに辰馬も他の人も舌を巻いていた。
雅の新たな意外な特技も発見された。
「にしても驚いたぞ!ヅラとパクヤサがあんな似ても似つかぬくらい死体にする事ができるとは。ワシも交ざりたかったがの」
辰馬はいつも馬鹿笑いしてる上、じっとするなんて辛抱強いことできるわけないから無理だが…
しかし雅のメイク技術は確かにハロウィンと間違えるほどの凄腕だ。