第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
「こっちだって願い下げだ」
慣れた手つきでヤクルコを開け、一気飲みした。
高杉は冷蔵庫から出したばかりの冷え冷えのヤクルコを飲むのがたまらなく好きだった。
銀時はおもむろに台所の家具をズラして隙間を作って覗き始めた。
「そーいやァ、掃除中にノートみてーなもんとか見なかったか?」
「ノート?」
銀時とは全く程遠いブツの名前が出てきた
松下村塾の頃も、先輩とは思えねえ勉強態度だった奴が
「何で急にそんなもん…勉学にでも目覚めたのか?」
「そんなんじゃねーよ。昨日の夜、色々あって…その…座敷わらしがいてな」
は?
またいつもの下らないおちょくりかと、高杉は呆れてその場から退場しようとした。
「待て待てこれは本当だ」
昨晩、確かに会ったのだ。
すぐそこの廊下で、不気味で小さな座敷わらしに。
幸福を運んでくるどころか、恐怖を運んできやがった。
呼吸が出来ないくらい追い込まれ…
銀時は思い出し笑いの逆の、思い出し恐怖した。
目が泳いだ状態で、取りあえず高杉にいきさつを話した。
「暗色のノートねェ…」
話を聞き終えても、高杉には心当たりがなかった。
検診で雅の部屋に出入りすることはある。
机の上に十数冊のノートがきっちり並べられてるの見たことも。
だが、1つ1つの色など覚えてるわけもない。
いや、第一に…
(何で俺に言わねェんだよ)
さっきの会話で、言うタイミングはいくらでもあった
夜中に探すくれェのもんなら、多人数の奴らに聞く方が効率的にもいいに決まってる
高杉は普段の彼女のことで心配した。
いつも独りでこなしちまう奴だから、こういう時は頼ってもらっていい気もするけどな…
パザッ!
『!』
台所の窓の外から、何やら音がした。
「何だ?」
高杉と銀時に聞こえたので、聞き間違いではないのは確かだった。
2人は台所から一旦抜けて、外の方に顔を出した。
そこで目にしたものは、
1冊のノートが地面に落ちていた。
「あれは…!」
高杉は吸い込まれるように向かって、それを拾った。
砂をはらい落として見ると、特に目立った模様もなく黒色でシンプルなノートだ。
「まさか、お天道様が落としたんじゃねーよな?」
銀時は空を見上げた。
もしかしてこれが、雅が探しているものなのか?