第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
ハッとして、高杉に問いた。
「足?」
「さっき私を手助けしてくれた時、結構な負担がかかったと思う」
しかし高杉が見たところ、足はそんな痛みもなかった。
「てめーのおかげで、今は大して痛かねェよ。軍の備品箱に比べりァ、お前なんか羽毛みたいに軽いもんだ」
「…面白くない冗談だ」
人より箱の方が重いなんてあるわけない。
「宴の時も、立て膝だと足首に負担がかかるからね。医者としてのアドバイスだけど、日常生活の些細なことも、十分配慮してほしい。意識するのとしないのでは、治りも違ってくる」
(そんなことまで考えてたのか?)
俺ァてっきり、一匹狼のコイツの気が変わったんだと…
(いや…昔からそうだったじゃねーか…)
今更って話だ。コイツは…
「医者の私が患者の傷を悪化させるなんて言語道断だ。とにかく、アンタの足の具合をみたいから、今夜も私の部屋に来て」
「…あぁ」
「それと、最後に言っておく」
声を低くして、戦にいるときのように真摯になった。
「私1人より、自分の大勢の部下を最優先に考えて」
「!」
雅に言われた途端、高杉は戦での緊張感やプレッシャー、自分の立場を思い出された。
いつもの休日みたいな穏やかさとはかけ離れた空気。
「アンタの忠告は肝に銘じる。だから、アンタも私の忠告を頭の片隅に入れておくようにして。
・・
総督」
今度こそ雅はどこかに行ってしまった。
(ハァ…自分から話すことも締めも、戦のことばかりだな)
実に、アイツらしいな…
戦のことしか考えちゃいねェ
仕事とプライベートは分ける、なんて世間一般では言うが、雅の場合、境界線すら分かりゃしねェ
いや、同化してると言った方がいいな
今みてェな懐かしい昔話より、戦術や医術やなんやら話す機会が多いんだろうな。あのぶっきらぼうは
高杉は、昔を思い出した。
でもまぁ、勝ち負けなんぞどうでもいいとほざいてた奴が、昔に比べたら変わったもんだ…
今のアイツは、本当にこの戦に勝ちたいと思ってらァ
俺も同じだ
アイツに悟られたワケじゃねーが、俺も
・・・・・・
ヅラみてェになるなってか
戦場に出るなと言うほど過保護に
言われずとも俺は大将だ
“自分の軍”(鬼兵隊)をほっぽるなんざしねェ
もちろん、アイツも見捨てたりしねェ