第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
「…てめーらしい面白くねェ冗談だ。こっちは真面目な話してんだよ」
言うまでもないが、死神というのはもともと死んでいるからそう呼ばれる。
今朝はそれ関連で高杉と坂本はもめていたが、まさか彼女は実際気に入っているのか?
いや、そんなことはない
(コイツが敵に付けられた異名を、喜ぶなんてタマじゃねェはずだ)
「前々から思っていたけど、こっちには“夜叉”も“鬼”も“龍”もいる。なら、“死神”がいてもおかしくないと思うが…」
確かに彼女が言うことはおかしくはない。しかし、
「…お前が気にしてねェんだったらいいが、あんま真に受けんな」
もし敵が俺の前でまたそんな罵声を放ったら、俺がそいつの舌ごときりおしてやらァ
口には出してないが、高杉はそんなことを思っていた。
「…そのつもり」
雅は木箱を持ち直して、部屋を出ようとした。
「それにお前ァ…」
ピクッ
足を止めて、高杉の方に振り返った。
高杉は少し口ごもり、後頭部に手を当て目を反らして、あの時を思い出しながら言った。
「お前が死ねば、悲しむ奴もいんだしな」
「!」
雅はその言葉に覚えがあった。
高杉と背中合わせの時、何となく言った言葉。
『アンタがいなくなれば、悲しむ人もいるし』
自分が放った言葉だが、逆に人に言われると、何だがもどかしくなってきた。
木箱をグッと握った。
「…私は周りがどう思おうと、アンタに言われなくとも、この戦では生き残るつもりだよ。感謝されようが…恨まれようが」
いつ死んでもおかしくない戦乱の地なのに、彼女はかなり自信満々だ。
普段はあまり自己主張をしない彼女が、ここまで言うとは。
「そんなに言うのは、戦後でも何か目的があるってことか?」
「……」
高杉からは見えない角度で木箱を持ちながら、包帯で巻いた左手にそっと触れた。
「…そういうアンタはあるの?」
「俺か?…いや、今は特にねェな。俺は先生が無事だったらそれでいいんだよ」
松下村塾生の中でも、高杉は特に松陽を慕っていた。
自分が目指す侍とは何か?
その答えを見つけるきっかけをくれた恩師でもある。
雅にとっても、居場所を与えてくれたかけがえのない先生だ。
他の松陽の弟子たちも、高杉と同意見の人がほとんどだ。
「あ…さっき、足は大丈夫?」