第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
現在
後に彼女が知ったことだが、あの時、松陽と銀時は旅の途中だったらしい
編み笠と服装で何となく分かってたが
急に雨が降り始め、編み笠を濡らすわけにはいかないから、松陽は笠屋で2本の傘を買うことにした
その暇な間に、銀時は近くの寺に何となく行ってみることにしたのだ
その“何となく”が、この物語を作り上げた
あの時、銀時が雅という存在を見つけなければ、彼女が吉田松陽に会うことはなかった
あの日が雨ではなく晴れだったら、彼女は2人に会うことはなかった
この出来事は、今もこの先も、このストーリーのあらゆる者にとっての分岐点になる
主人公である彼女自身、その周りにいる高杉や銀時たち、10年後の未来でも生き続けている者たち
長い時を経ても、その余波は続く
まだまだ先にならなければ、彼らはそれを自覚することはない…
皮肉なのは、彼女が松下村塾に入った引き金が、本来の主人公である“彼”(坂田銀時)ということ
この物語は、あくまで高杉がメインだ
昔も今もこの先も、彼は雅と深く関わっていく
雅はかつて、高杉の意地っ張りの影響で、試合に本気で挑むということを知った
彼もまた、彼女の“きっかけ”でもある
しかしそれよりも前、彼女が松下村塾に入った時点で、すでに銀時は彼女の“きっかけ”になっていた
(“アイツ”(銀時)…そんなこと一度も言わなかったじゃねェーか)
高杉は正直、自分が雅のことを一番理解していると思っていた。
旧友としても、戦友としても
だが話を聞く限り、銀時の方がよっぽど旧友のように思える。思ってしまう。
先を越されていた感じがし、高杉は胸くそ悪くなった。
しかしそれでも、無口な彼女のことをまた少し知れたことに、ちょっとは嬉しく思っているだろう。
(雅…てめーは…)
高杉はため息をついた。
「せっかくの休みに、こんな事あんま言いたくねェが、お前はこの戦で大事な戦力だ。おっ死んだりさっきみてェな事故も、もう勘弁してくれよ」
いつもの周りに言われる忠告。
しかし彼女は腹を立てる様子はなく、
「死なないよ私は。何でも、死神って呼ばれているくらいだ」
「!」
むしろガラでもなく、若干フッと笑った。
「けど…本物の死神なら、私を殺せるんじゃないかな」