第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
『それにしても、こんなところで雨宿りとは。よほど焦っていたのですね。2人共』
女性と間違えるくらいの綺麗な容姿の男は、にっこり笑った。
少女はその態度にしゃくに障った。
…私より強い銀髪を従わせるくらいだ…間違いなく強い…この男は
この男から何か妙な感じがする…
いや…これ以上、コイツらと関わるわけにはいかない
手荷物を持って家屋から出ると、男は少女の頭上に自分の傘を差した。
『風邪を引きますよ』
少女の睨んだ目も全く気にせず、ただニコニコしている。
『私は吉田松陽といいます。君の名前は?』
いくら相手がだんまりで睨みつけてきても、この男は関わろうとすることを全く止めない。
コイツ…
『おや、ケガをしているのですか?』
少女の左手に包帯が巻いてあることに気が付いた。
『少し見せてください』
男は手を伸ばした。
“!”
パシッ!
少女はその手を払いのけた。
払いのけた少女の手には、巾着の紐をぶら下げていた。
そのためその衝撃で、大事な手荷物をつい飛ばしてしまった。
ボチャン
荷物は水たまりに入ってしまった。
あ…
急いで拾い上げて、中が濡れていないか確認した。
しかし、中の写真や道具は無事だ。
銀髪の少年は、加勢も何もせずその様子をただ眺めているだけ。
男はゆっくり、少女のそばにより優しく声をかけた。
『…アナタ、ご家族や帰る場所は?』
その呼び掛けに全く答えず、荷物を抱えたままずっと俯いた。
『もし、銀時がアナタに失礼をしたなら、私が代わりに謝ります』
そしてようやく、男の目をちゃんと見た。
謝罪の意を示すくらい礼儀がいいのなら、不意打ちしてくる卑怯者ではないはず。
『どこぞの…馬の骨とも知らない子供より…自分のお子さんを…気にかけないんですか?』
男は困ったような笑みをした。
『いいえ…彼は、私の子ではありません。今アナタが言った以上に、立派な風来坊でしたよ』
風来坊に立派も何もあるのか?
“拾い子か…”
少女は、特に驚いた様子ではなかった。
最初見た時から、何となく察しがついた
自由奔放や体たらくそうな性格、何より自分と同じ刀を持っているから
松陽はしゃがんでいる少女に、手を差し伸べた。
『もしよかったら、私の塾に来ませんか?』