第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
ザー
少女は、その突拍子もない質問を前に、しばらく口が開かなかった。
いや、開く必要も聞く必要もなかった。
『……』
また顔を伏せて、その少年を無視をした。
『何だコイツ?こんな心霊スポットで真っ昼間に肝試しして、小便ちびったってか?』
近付くな…話しかけるな…これ以上関わればお前を…
『まさかてめェが本職で、幽霊だからしゃべれねェってか?』
幽霊…か…間違って…ないかもな…
あまりのしつこさに、少女は顔を上げた。
銀髪の少年はその目を見た。
『何だ…幽霊でも耳なし芳一とかじゃねーんだな』
何だコイツ……ん
ガッ!
銀髪の少年の腰あたりを見た瞬間、身を引いて自分の刀に手をかけた。
何故ならソイツも刀を持っていた。私と同じガキなのに
『おい待て。そう身構えるなよ』
少女には分かった。
コイツが声をかけたのは、刀を持った自分を不審に思ったからだと。
バッ!
先手必勝。
相手が動くよりも早く刀を抜き、峰打ちを狙った。
ザンッ!
しかし銀髪はそれよりも早く、刀を抜いて防いだ。
コイツは…
ギギッ…
刀同士がきしめく音が鳴る。
『左利き?ずいぶん珍しいな』
呑気に珍しがるくらいの余裕で、あっさり受け止めた。
自分から反撃することなく、殺気も感じられない。
少女は意を決して、ようやく口を開いた。
『……誰?お前は』
ようやく声を聞け、銀髪は笑みを浮かべた。
『てめーと同じ、雨宿りしに来た流れ者だ』
“……”
少女は刀を鞘に収めた。
今のでこの少年の実力も、今やり合えば確実に負けると確信したからだ。
圧倒的な実力の差でも、無闇に戦いを挑むバカよりも利口だった。彼女は
『雨宿りでも何でも…したければ好きにしろ』
冷たいセリフを言い捨て自分の手荷物を持ち、家屋から出た。
『こんな雨にあたりァ、てめーの大事な荷物がまた濡れちまうぜ』
銀髪はさっきの接戦で、懐に大事そうに抱えられた書物があることに気付いていた。
それだけじゃない。
刀の持ち方使い方も、誰かに教わったものではない
大ざっぱな我流だ
コイツを見ていると、まるで昔の…
『随分な変わり者に見えるが、よく考えたら本物の幽霊だったら雨に濡れねェか』
だからここにいんだろ?
『…お前には…私が亡霊に見えるか?』