第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
内容は分からなかったが、見た限りあれは
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男の筆跡
しかも、第一次の戦争にいた人物で間違いなさそうだ
(どうやって手に入れたんだ?)
そう頭を使っていたら、朝の頭痛がまた起こり始めた。
「う…」
「もしかしてアンタも二日酔いか」
高杉が若干顔をしかたのを見ただけで当てた。
「“も”ってことは、他の奴ががすでに」
「朝何人か来た。銀も」
(銀時?)
いつも一番遅れてくるアイツが?
「アイツは恐らく、ピカイチで酔う体質だよ。それでもいつも無理して飲むのはアンタに張り合ってんだね」
宴会後、大人数が酔い止めを貰いに来る中、毎回銀時がいるのを雅は知っていた。
そして、奴は小さい頃から変なところで負けず嫌いを発揮するのも。
高杉との試合で連敗すると少し拗ねることも。
それほど銀時を知ってるように話し、高杉は何か複雑な気持ちになった。
自分のこの気持ちをうまく言い表せないが、雅を見ていると…
「…お前って昔から、人一倍…銀時と親しいな」
「?」
昨晩のこともあって、高杉はつい口が滑った。
「せ…先入観とかじゃねェ。一見、お前とあんな無気力な野郎じゃ馬が合わねェ気もするんだが、そりゃ付き合いが長ェもんな」
お前はアイツを唯一、あだ名で呼ぶしな
雅は若干俯いて間を空けた。
「…前、言ったこと覚えてる?
“アンタにだけ話せば、アンタが私の特別みたいになるから”って」
「!」
高杉はすぐ思い出した。
そう。あれはいつかのあの夜。瓦屋根の上でういろうを食べたあの時。
彼女が別れ際に言ったセリフだ。
「ああ。よく覚えてらァ」
何より、彼女の涙がすごく衝撃だったので、高杉はすぐに思い出せた。
「私はこの戦で、特別視されないこと…しないことを肝に銘じてきた。誰かをひいきするつもりもないし、そんなことしたくなかった。もっとも独りがいいっていうのが一番の要因だけど」
高杉はそのことを、言われるまでもなく分かっていた。
ひいきしないというのは、不器用な優しさだということを
「でも多分…そう見えたのは、アンタの先入観じゃないと思う」
「じゃあ…お前自身、銀時と親しいって自覚があるってことか?」
そう聞くと、雅は目を合わせた。
「私が松下村塾に入ったきっかけは、アイツでもあるんだ」