第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
「第一次?」
驚きのあまりつい声を上げた。
今自分たちがいるのは、第二次攘夷戦争。
つまり今より10年も前。
第一次には、白ふんの西郷や泥水次郎長など超大物攘夷志士が存在した。
高杉も含め、現攘夷志士の皆も知ってるほど有名だ。
「初めて知ったぞ、そんなもんがあるなんて」
10年前の記録が、まさかこんな所に保存してあるなんて
「それはそうだ。私の物だから」
「!」
埃をはらって中身をパラパラと見た。
やはり長い時間が経過してるだけあって、紙も廃れていて墨字も読めるか何ともいえない。
「読めるのか?」
「普通の人には読めないと思う。だけど、私はこういう字には慣れてるから多分読める」
雅はあるページに指を止めて着目した。
高杉は何が書いてあるかは分からないが、彼女には分かった。
「やっぱりすごい…名前だけじゃなく死因も書き留められている」
名誉ある戦死、長期戦による過労死や病死など様々。
もしそこに全ての戦死者が書き留められてるとしたら、ひょっとしたらその中の1つに、
“寺田辰五郎 死因:銃弾”
と、書かれているかもしれない。
「それを読めるお前も十分すげェと思うが」
雅は読み進めて一通り資料を見終えたら、また木箱に戻した。
「恐らく、私が個室を持つようになる前に、こんな所にしまったんだと思う」
第二次の戦争初期、彼女は今のような私室はなく医務室の隣の小さな予備部屋を使っていた。
そこに物置の十分なスペースはなく、資料は別の所に置いていた。
そしてその名残が一つ、今見つかったというところか。
「取ってくれてありがとう。この記録は、これからの戦の重要な“糧”(資料)になる。“過去の経験があるからこそ今に繋げられる”って言うし…」
多くの死傷者が出た原因を、過去を振り返りよく理解しておけば必ず今の力になる。
医者にとって、とても必要な情報だ。
あの彼女が2回もお礼を言うほどの。
確かにスゴい。その熱心さも医者の鏡だ。だが…
(何でコイツがそんなもん持ってるんだ?)
10年前の戦の記録書なんて、並の奴が持てる代物じゃねェ
コイツは確かにある意味でも大物ではあるが…
何よりこの資料とやらは、
・・
誰かの手書き。刷られたものじゃない。じゃあこれは…
(誰が…書いたもんなんだ?)